ホビーアニメを観ていたらいつの間にかアホになっていた

現在放送中の子ども向け番組を中心に、アニメや特撮ドラマについて書いていく。毎話「感想」を書くわけではなく、気になった話数や一般的な議論に関する記事を書く予定だ。

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ウルトラマンオーブはウルトラマンを創造的ヒーローにできるか?

「王道」か、「斜め上」か、邪道か

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この7月から新番組『ウルトラマンオーブ』がスタートする。筆者はこの番組の概要を見た瞬間に、またオールスターかよと思ってしまったが、田口清隆監督は「斜め上」のウルトラマンを狙っているようだ。

 

昨年の『ウルトラマンX』は<王道と原点回帰>をスローガンにしつつ「とにかく面白いウルトラマン」を追求しました。今年の新作『ウルトラマンオーブ』はこの流れを汲みつつも「もっと上」ではなく「斜め上」に行ってしまえ! と舵を切りまして、<迷ったら遊べ>をスローガンにしました。“いつも通り”よりも“思いついちゃった面白い方”を選択せよ、という宣言です。

ウルトラマン放送開始50年のこの大事な年に、敢えて、それに捕われない自由な発想のウルトラマンを創造しようと色々実験しております。『ウルトラマンオーブ』、ご期待ください!

新TVシリーズ 『ウルトラマンオーブ』が2016年7月9日(土)よりテレビ東京系にて毎週あさ9時~放送決定!歴代ウルトラ戦士のパワーをかりて戦う“風来坊”の新ウルトラヒーロー誕生! | 円谷ステーション

 

 

昨年の『ウルトラマンX』に続いて第1・2話の演出をはじめ、作品世界の構築やキャラクター造形全般に携わっているメイン監督・田口清隆氏は、「『ウルトラマンX』では、ウルトラマンの原点回帰、王道を目指すと宣言していましたが、今回の『ウルトラマンオーブ』は今までのウルトラマン(シリーズ)をぶち壊しにするくらい、未来に向けて今後のウルトラマンを作っていくための実験をやっていこうと舵を切りました」と、新たなるシリーズの方針を説明。

「ウルトラマン」最新作のスローガンは「迷ったら、遊べ!」、田口清隆監督が会見で明かしたシリーズの未来へ向けた決意 | マイナビニュース

 

PVを観ると、ドラマの作風がコメディタッチで、昭和ウルトラマンの日常シーンを彷彿とさせる気がする。

 

youtu.be

 

だが、ウルトラマンのギミックにシリーズとしての独立性を感じられないのは、作品として致命的だ。我々はそうしたオリジナリティを創造性という言葉を使って表し、評価する。そもそも創造性とはなんだろうか?創造性は必ずしも無から有を生み出すことではない。無からであれ、有からであれ、新しい価値を生み出すことである。


この記事では、創造という言葉の定義を提示し、ウルトラマンにおける創造性について検討する。

 

 

辞書的な定義 

辞書的な意味において、創造とは、「それまでなかったものを初めてつくり出すこと」、また、「新しいものを初めてつくり出すこと」である*1。神による創造が原義だが、「既存の要素あるいは素材の独創的組合せによる新しいタイプの事物の算出」を含む場合もある。類似の行為は、海賊戦隊ゴーカイジャーのゴーオンウィングスでやっている*2。ただし、能力の似ている2体の(ウルトラ)戦士を組み合わせて新しい戦士を作ること自体は辞書的な意味で、創造の定義に当てはまる。辞書的な意味においては、新しいタイプに初めてなれば、新しいのだ。

 

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学術的な定義

日本創造学会は、創造を以下のように定義している。

 

人が問題を、異質な情報群を組み合わせ、統合して解決し、社会あるいは個人レベルで新しい価値を生むこと。

創造の定義|日本創造学会

 

この定義からわかる通り、学術的な観点からは、既存のものを使用することは問題ないと言える。日本創造学会は、中国・朝鮮や欧米列強に追いつきつつ、既存の文化から新しいものを生み出した日本人の歴史を肯定的に見ている*3。独創性というのは、創造性の中でも上位に位置する概念であり、独自に全く新しいものを生み出すことを言う。言い換えれば、神のように新しいものを作る必要はなく、古いものから作ったものが新しさや新しい価値を兼ね備えていれば良いのだ。

ここからは、学術的な定義に基づき、ウルトラマンの創造性について検討していく。
円谷プロダクションの企業ウェブサイトには、大岡 新一代表取締役社長の挨拶が掲載されている。その中から問題にあたる部分を抜粋する。

 

創設者である円谷英二が持っていた飽くなき想像力とたゆまざる探究心を受け継ぎ、日本の多くの方々に夢と希望、愛と優しさ、感動を届けようと日々邁進しております。

(中略)

偉大なヒーローであるウルトラマンがこの先の未来も“真のヒーロー”であり続けるために、クオリティの高い作品を作り続けていくことこそ私たちの最大の使命ととらえております。そのためには、時代が常に変化し続けていく中でも、円谷英二が持っていたチャレンジ精神を受け継ぎ、誰も見たことがないような驚きと感動を与えられる作品作りに挑戦していく決意であります。
今の子供たちが大人になったときにも「私たちのヒーローはウルトラマン」と言ってもらうことが目標です。

社長挨拶 | 株式会社 円谷プロダクション

 


このメッセージから読み取ることができる円谷プロダクションの問題は、(円谷英二の意図した)価値の提供、それから、ウルトラマンの認知と支持の拡大である。この2つの問題に関して、創造が行なわれているか考えていく。

 

 

価値の提供

円谷英二に敬意を表し、円谷プロダクションが提供しようとしている価値については、以下のような記述がある。

観ている人たちに喜びや驚きを与えたい。
その喜びや驚きを糧に、想像する喜び、未来に向かう希望、平和や愛を願う優しさなどを育んでもらいたい。
その英二の思い、情熱を忘れることなく、創業から50年を経た現在も円谷プロダクションは声援を寄せてくださる多くのファンの皆様の想いに応えられる作品作り、 キャラクターや映像の創造に努めています。

創業者・円谷 英二 | 株式会社 円谷プロダクション

 

 

特撮技術がもたらすワンダーと、ドラマが誘起するパシフィズム。これが円谷が提供しようとしていた価値であろう。円谷は怪奇現象や激しいアクションを形にする特撮技術と平和を訴えるドラマという異質な情報群を組み合わせ、統合し、そうした価値を人に提供していたのだ。

 

こうした活躍が社会に与えた影響は大きい。今やウルトラの母は、女性の代表として、様々なキャンペーンに起用されている。ウルトラマンXとウルトラマンコスモスが熊本地震の被災地を訪問する様子はニュースにもなった。Xとコスモスが被災地を訪れたのは、ウルトラマンをイメージキャラクターに据えたウルトラマン基金*4による慈善活動の一環である。もはや、現実の社会に根ざしたヒーローという新しい価値は、揺るぎのないものだ。円谷英二の重視した考えを人々に広めたウルトラマンは創造的であるといえよう。

 

 

ウルトラマンの認知と支持の拡大

一方で、子どもへのウルトラマンの認知と支持拡大に関しては、まだ問題がある。たしかに、ウルトラマンのテレビシリーズが再開された2013年以降、認知度の上昇は達成されたと言って問題ない。しかし、それが創造的であるかと問われれば、首を縦に振ることは難しいだろう。そもそも、多くの子どもにとって、「私たちのヒーローはウルトラマン」ではない。アイリス収納インテリアドットコムの調査(2015年*5 )では、男の子の好きなキャラクターの上位に、ウルトラマンはない。ウルトラマンの玩具を扱うバンダイの、同様の調査*6にもウルトラマンの名前はなかった。

ちなみに、ウルトラマンの玩具売り上げは27億円(2016年*7 )となっており、仮面ライダーやスーパー戦隊に遠く及ばない。2014年*8に32億円の売り上げを記録して以降、大きく上昇していないのが現実だ。ただし、2013年の売り上げが20億円であったことから考えれば、認知度の上昇に効果があったことは想像に容易い。

 

同じヒーローのスーパー戦隊や仮面ライダーは毎年斬新なデザインで新たな価値を生み出していく。「女の子の遊び」というステレオタイプがあったままごとや、「女の子のおもちゃ」のモチーフと考えられていたフルーツを「男の子のおもちゃ」に落とし込んだ仮面ライダー鎧武。鎧武は、大人も巻き込み、新たな価値を生んだと言えるだろう。だが、ウルトラマンはここ数年、歴代の力を使っているだけである。いくら異なる2体のウルトラマンを合体させても、支持や認知に対しては何の価値も提供できない。ウルトラマンも、お菓子を使って変身するウルトラマンティラミスなどを作ってみてはどうだろうか?

 

もちろん、ウルトラマンと一発でわかるデザインや、既存のファンを大事にする心はウルトラマンの大切な要素だと思う。しかし、過去にこだわって、目新しいオリジナリティ溢れるウルトラマンが作られなければ、ウルトラマンが今後生き残ることは難しいだろう。

 

いずれにせよ、ウルトラマンへの支持は伸び悩んでおり、過去の作品に頼るというやり方しか編み出せていないのが現状だ。せっかく社会貢献度の高いヒーローなのだから、社会を巻き込むような創造的な問題解決をして欲しいものである。

 

 

小手先の新しさよりもコンテンツとしてのオリジナリティを

話が大きくなりすぎたが、ウルトラマンにおける創造とは、特撮ドラマそのものを、あるいは新たなウルトラマンを作り、そこから新たな価値を生み出すことである。オーブが歴代ウルトラマンを抜きにすれば語れなくなる存在になれば、シリーズの汚点になりかねないだろう。仮面ライダーディケイドや海賊戦隊ゴーカイジャーは単独でもそれなりに能力が使えたはずだ。これがオーブ独自の姿だ、オーブ独自の必殺技だというものが欲しいというのが、筆者の率直な感想である。

キャッチコピーが「光の力、おかりします」だそうだが、借りなくとも生活できるようになってほしいものだ。

 

m-78.jp

www.b-boys.jp

www.tv-tokyo.co.jp

 

[rakuten:es-toys:10959871:detail]

*1:創造(ソウゾウ)とは - コトバンク

*2:ゴーカイジャーは鍵を使って歴代のスーパー戦隊に変身できる6人組のヒーローである。中でも追加戦士に変身するゴーカイシルバーの伊狩鎧は、鍵の力を合成する能力を持っている。ゴーオンジャーに変身する際、追加戦士が(ゴールドとシルバーの)2人存在するため、どちらに変身するか迷ってしまった。そんな中、脳内の妄想から半身がゴールドで半身がシルバーの姿を生み出したのだった。ゴーカイシルバー・ゴールドモードは、それを応用し、追加戦士の鍵をすべて合成して作った新しい姿である。

*3:創造性の重要性|日本創造学会

*4:ウルトラマン基金 ULTRAMAN FOUNDATION - 子供たちの、今と未来を支援する基金。

*5:「人気キャラクターランキング2015」の結果発表! | アイリス収納・インテリア ドットコム

*6:お子様の好きなキャラクターは何ですか?|調査結果バックナンバー|バンダイこどもアンケート|株式会社バンダイ

*7:決算短信 | IRライブラリ | IR・投資家情報 | 株式会社バンダイナムコホールディングス

*8:久々のテレビシリーズ・ウルトラマンギンガが放送された年の決算。

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