求められるリアルな描写
子ども向けアニメ・特撮のトレンドはファンタジーというよりも、リアルになりつつある。AIであれ、医療であれ、芸能活動であれ、専門家の監修が求められているのだ。例えば、『仮面ライダーエグゼイド』で登場したリプログラミングという能力は、現実の医療から着想を得たものである。遺伝子操作によって病気の感染を防ぐという医療技術を、仮面ライダーの攻撃に変えた*1。
普通に考えれば、医者の仮面ライダーがウイルスの怪人を倒すことで病気を治すというだけでも話は成立する。しかし、エグゼイドは研修医を主人公にしながら、インフォームド・コンセントなどの現実の医療でも大事なことを扱っている。作品として楽しいだけでも十分なのだが、エグゼイドはそれ以上のことをやってくれている。
大人がアニメや特撮を好きなことが普通になる中で、こうしたリアルな描写が今や普通になりつつある。東映および東映アニメーションの子ども向け作品に多く見られる現象だが、それ以外の作品でもあるものはあるので、そちらも織り交ぜながらリアルな作品を紹介していきたい。
綿密な取材
取材に基づくリアルな描写というのは、ドラマだけでなくアニメでも行われている。アニメ『アイカツ!』では取材協力者が何回かクレジットされている。例えば、第58話「マジカルダンシング♪」は先生が振り付けのやり方を指導するという回だった。その回のエンディングには取材協力として、声優の能登有沙さんと所属事務所スタイルキューブの名前が載っている。同じく第90話「ひらめく☆未来ガール」では、ミュージックビデオ製作の舞台裏が描かれており、映像作家の方と制作会社の方の名前が取材協力として掲載されていた。こうした細かい擦り合わせがあるから、芸能活動の経験がないスタッフでも芸能活動について詳しく描けるのだ。
本物の追求
本物のお菓子
今、視聴者が求めているのは、「それっぽい嘘」ではなく本物だ。『キラキラプリキュアアラモード』に登場するお菓子も、実際に作ることを想定している。例えば、第4話に登場した「スワンシュークリーム」は見るからに作るのが難しそうだが、作り方がウェブサイトに公開されている。尺の余る回では、作り方やデコレーションの仕方が番組の最後にも少しだけ流れる。物によっては、最初から作るのではなく、「デコレーションからやってみましょう」としているので、お菓子づくりの経験や才能のないお父さん・お母さんでも作れそうだ。
それだけにとどまらず、一部の回ではスイーツに詳しい有栖川ひまり(キュアカスタード)らが製菓の技巧や、なぜ失敗するのかなどを解説してくれる*2。別に架空のお菓子を架空の作り方で作ればいいのに、ここまで本物を追求する。これは、弓道警察やフェイクニュースなどのファクトチェックがある今だからこそできることなのかもしれない。
(キラキラプリキュアアラモードにはスイーツ監修が付いている*3。お菓子といえども下手をすれば死に至る。視聴者の子どもがお菓子作りをする可能性もあるので、正しいに越したことはない。)
本物の関西弁
『ベイブレードバースト』シリーズでは、普通に出演もしている声優の松田颯水さんが関西弁指導としてクレジットされることがある。小紫ワキヤというキャラクターが関西弁を話すが、演じる小林ゆうさん自身は東京人なので、関西弁指導をつけるのは正解である。とはいえ、そこまでリアルを追求すべきだろうか?
もちろん、俳優・声優が関西出身者であっても、何も知らない視聴者が「エセ関西弁だ」と叩くこともある。方言指導がつくといえば、NHKの朝の連続テレビ小説が思い浮かぶが、あれはそういう批判を寄せ付けづらい。方言指導をつければ、問題のある表現になりにくく、批判もしづらいのだろう。
本物の玩具でも再現
ちなみに、『ベイブレードバースト』シリーズでは、アニメで登場したギミックが基本的に現実の玩具でも再現できるようになっている。現在放送中の『ベイブレードバーストゴッド』には、相手の攻撃を吸収して加速するベイ(コマ)が登場する。この能力はアニメ限定の架空の能力ではない。アニメでは、このベイのブレーダーがハンデとして手で回すというシーンがある。実際のところ、手で回すと本当に攻撃を吸収して加速するという。たしかに「気合いで攻撃を吸収してやったぜ」では嘘になってしまうので、そうした配慮は商売人として重要だ。
科学をファンタジーにしない
現実とのリンク
『デジモンユニバース アプリモンスターズ』にはAI監修という役職がある*4。そのおかげもあり、このアニメではかなりリアルに人工知能やサイバー災害を描いている。物語の中心となるのは、人工知能を利用したスマートフォンアプリから生まれたモンスター・アプモンだ。彼らは通常状態では一つひとつの機能を持つ弱い存在でしかないが、「アプ合体」を繰り返すことで、より強い機能を搭載していく。例えば、検索アプリのアプモンがGPSアプリと合体することで、地図検索が可能になる。アプモンはこの機能を利用して、監視カメラを管理する敵の死角を検索し、奇襲を仕掛ける。
この作品のすごいところは、現実(現実における予測)に即した物語を展開するところだ。例えば、この作品における敵の親玉は、知能を高めた結果、人間に反発し始めた人工知能という設定である。これを作ってしまった人物は、ダートマス会議(実在)にも出席したことのある人工知能学者(架空)という設定で、回想に登場していた人工知能の試験法なども実在するものだった。子ども向けには勿体無いが、初代デジモンを観ていた大人にはこの程度の深さがちょうど良いのかもしれない。
術語の使用
遊戯王VRAINSも同様に、人工知能などのITがテーマになっている。このアニメでは、謎のデュエリスト・Playmakerことホワイトハッカー・藤木遊作が謎のハッカー集団・ハノイの騎士とIT企業・SOLテクノロジー社に立ち向かう。アプモンに比べると、デュエルに勝たないと解読できないデュエルプログラムや、モンスターの攻撃で破壊される街頭ビジョンなど、トンデモな部分が多い。だが、モンスターの一部のモチーフがコンピュータ用語になっているなど、それなりに現実を反映している。主人公がハッカーである関係上、アルゴリズムなどの専門用語なども登場する。もしこうしたアニメがしっかり調べもせずにデタラメを流し、子どもにはわからないだろうと高を括っているならば、IT警察がやってくるだろう。
ルール上再現できるか
ちなみに、カードゲームアニメで慢性的に問題になっているのが、アニメでやったことが現実のゲームで再現できないということだ。つまり、アニメ内で展開されているゲームを構築する際に、担当者がミスをしている場合がある。スポ根アニメに比べて相手とのやりとりが複雑であるため、ミスが発生しやすいのだ。例えば、出せるタイミングではないときにカードを出していたり、カードの命令とは少し違う操作をしていたりする場合がある(平たく言えば、ルール違反)。こうしたミスがあると、アニメの内容が現実で再現できないだけでなく、ネットからの反発が起こる。そのため、カードゲームの監修は昔以上に重要な役割となっている。
事実の時代になった
以前、演奏中のトランペッターの背中を押すというCMが危険極まりないという指摘を受け、放送中止になった。これに対しては、「表現規制ではないか?」「過剰反応だ」という声も聞かれる。彼らが前提としているのは、思慮深い大人は再現しない、あるいは再現しても事故を起こさないという過信だ。でも、YouTuberやニコ生主の時代にそんな驕りは通用しない。再現した人が大怪我をしたり、亡くなったりしてからでは遅すぎる。
一方で、嘘がまことしやかに広まってしまうということを良しとしない社会の風潮もある。かつては、ゲーム攻略本の誤報が笑い話になったが、今はあらゆる報道がファクトチェッカーに監視される時代になっている。人殺しや嘘つき呼ばわりされたくなければ、事実を流さなければならない。もちろん、仮面ライダーエグゼイドのように、本来やらなくてもよい内容を視聴者の期待を超えて流すということも大切である。
日本人は言葉が魂を持っていることを知っている。私もできるだけ本当の情報を流すことに努めたい。
*1:仮面ライダーエグゼイド 第23話 極限のdead or alive! | 東映[テレビ]
*2:ただし、科学的な根拠が難しいものに関しては、「混ぜすぎるとキラキラル(お菓子の秘めたエネルギー)が逃げてしまう」などの説明にとどまっている。