ホビーアニメを観ていたらいつの間にかアホになっていた

現在放送中の子ども向け番組を中心に、アニメや特撮ドラマについて書いていく。毎話「感想」を書くわけではなく、気になった話数や一般的な議論に関する記事を書く予定だ。

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『レゴフレンズ』がトモリョクで日本女児アニメ界に殴り込んできた

女児アニメ界に黒船来航

日本女児アニメ界にとんでもない黒船が来航してしまった。その名も『レゴフレンズ』。5人の仲良しグループが友達の力「トモリョク」で日常の困難を切り抜けていく物語である。こういう風に紹介すると、普通の女児向け日常アニメじゃないかと思うかもしれないが、そんな生易しいものではない。

 

 

友達の力・トモリョク

このアニメのキーワードである「友達」や「トモリョク」が、視聴者の関心を集めている。男児向けの『レゴニンジャゴー』や『レゴネックスナイツ』では、特殊能力である「エレメントパワー」や「ネックスパワー」が登場した。一方で、日常系アニメというジャンルからも明らかな通り、トモリョクに特殊な力は秘められていない。文字通り、友達の力である。

 
「なんだ、普通じゃん」と思うかもしれないが、トモリョクは格が違う。日本女児アニメ界では、『プリパラ』の「み〜んなともだち、み〜んなアイドル」に代表されるように、穏便・融和が求められる。みんなで仲良くすることが、「愛」というラベルを使って賞賛される。たまにケンカばかりする作品が作られることもあるが、あまりヒットしない。

 

しかし、レゴフレンズは平気でその真逆を行く。つまり、仲良しグループ内でのみ仲良くし、それ以外とは反発し合う。周囲の反発に晒された仲間(のみ)を助けるとき、ピンチの仲間(のみ)を助けるときにこそ、トモリョクは発揮される。それだけにとどまらず、登場人物には優等生や愛の伝道師であろうとする規範意識すら存在しない。日本人はとんでもない女児向けアニメに出会ってしまった。

 

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女児アニメのお約束

日本の女児向けアニメは、女児が穏和な雰囲気を好む前提で話が作られている。例えば、他人の悪口を言ったり、わがままを言ったりする子は悪役に位置付けられる。このように、女の子同士がケンカもせず、穏やかな日常を送っている印象がある。作画上でも、年頃の娘なのに胸が平らに描かれたりするなど、厳しい暗黙のルールがある。少しでも不適切な絵があれば、クレームが来る。そうした厳格なお約束があるのが、日本の女児アニメである。

 

仲良くしなければならない

女児向けアニメでは、友達との融和が強く求められる。『アイカツ!』でも、ライバルとのぶつかり合いを描かず、ほぼ最初から仲良くしていた。ライバル同士の全く違う2人がユニットを組むという展開なのに、説得力がないという弊害もあった。そのような極端な愛が、人類の敵であるはずの悪の組織にも向かうこともある。プリキュアシリーズでは、敵幹部の少女に主人公が憧れたり、親近感を覚えたりするような描写もあった。そうした一見理不尽に思える「無償の愛」が女児アニメの雰囲気を形作っていると言っても、過言ではない。

 

主人公は優等生でなければならない

女児アニメの主人公には優等生であることが求められる。暴言を吐かず、誰に対しても優しく接することが期待されている。ときにルール違反をすることもあるが、そのときは素直に謝る。もちろん、いたずらや暴言などをするキャラクターもいるが、その役は基本的に主人公以外に割り当てられる。


仲良くするというところにも絡んでくるが、日本の女児アニメの主人公は他人をクズだと思わないし、見下したりしない。そのような人物によって窮地に陥っても、相手に危害を与えない方法で解決し、または「王子様」(必ずしも男性ではない)がくるのを待つ。それどころか、自分に危害を加えた相手に対して「大好きだよ」と言ってしまう聖人君子もいる。

 

忖度と協力で解決する

日本の女児向けアニメだと、友達同士の忖度と協力で困難を乗り切ることが多い。そのため、聞いたうわさが実は勘違いで、無駄な苦労だったというパターンもよくある。さて、忖度と協力というのは何かを秘密にしたいときに発揮されることが多い。例えば、誕生日パーティをサプライズで開くとき、大人に秘密で何かを行うとき、発揮されやすい。


ただし、あくまでそれは穏健な方法で行われる。誕生日パーティが開かれるという事実とそれを秘密にしてほしいという要請から、それ以外のあらゆる協力を仲間に対して暗に求める。それは、お菓子を用意するなどの他人に危害を与えない方法であり、誕生日の人に対して利益を与えられることを期待した行動である。このように、日本の女児アニメでは、行動に対する想いが前面に押し出される。

 

掟破りのレゴフレンズ

ここまでまとめたように、日本の女児アニメには強く信じられてきた慣習がある。最近ではそれも破られつつあるが、毎週ギスギスするなどの冒険はしていない。このことを念頭に、レゴフレンズがいかに黒船であるかについて説明する。

 

グループ以外とは仲良くしない

『レゴフレンズ』の「フレンズ」の範囲は、街の人々でも生きとし生けるものでもなく、仲良しグループのメンバーである。第2話では、女の子同士で煽り合うショッキングなシーンがある。この回では、市長の娘・ターニャがミアの飼っているパグを馬鹿にしたのだが、ミアと友達のステファニーはターニャを煽り返す。日本であれば、その悪口を聞き流して「大好き」と言っていたはずだ。

 

それどころか、同じグループ内でも、無償の愛が提供されない場合がある。女児向けでもアメリカンジョークは健在なので、友達の不幸に対しても平気で皮肉を言っている。日本のように、友情の綺麗な部分だけを切り取って、「べきだ」を主張しないところがとても新鮮だ。

 

聖人君子がいない

レゴフレンズには優等生がいない。第2話では、ステファニーが、他人から借りてきた犬を駄犬認定する。犬を血統書で判断するし、言うことを聞かない犬には呆れてものも言えない。通常であれば、ここでブリーダーなどがアドバイスをしてステファニーのやり方を正すのだが、レゴフレンズにおいてそのような良心的なブリーダーは存在しない。結果として、ステファニーは犬にも劣る自分の愚かさを思い知ることになる。


そもそも、このアニメにはヒール役が多すぎる。暴力的な少年・フランコ、意地悪な市長の娘・ターニャ、犬の窃盗集団ジェイソン親子など、個性豊かなヒール役が登場し、世の中にはいい人ばかりではないことを物語っている。レゴフレンズの場合は、そうした悪役が怖くてフランクではない。男の子向けの『レゴニンジャゴー』や『レゴネックスナイツ』では愉快で憎めない悪役が多かっただけに、ギャップが際立つ。日本の女児向けが「優しい世界」だとすれば、レゴフレンズは「怖い世界」だ。

 

実力行使で問題を解決する

レゴフレンズは、トモリョク(=友達の実力行使)で問題を解決する。第1話では、女友達に送るはずだった「大好き」のメールを、間違えて男友達に送ってしまうという事件があった。日本の女児アニメの解決法であれば、別の友達が協力して、相手に気がないと分からせるようなシチュエーションをセッティングするだろう。しかし、『レゴフレンズ』では、極秘裏に男友達のスマホを盗み出し、メールを削除するという驚きの方法をとる。


このように、レゴフレンズでは、相手に気持ちを忖度させるなどの伝統的方法をとらない。同じく、第3話の予告も大変なことになっている。動画配信の人気が落ちたため、芸能人のスクープ映像を撮りにいくという話だ。おもしろ動画を撮るために、みんなで試行錯誤するのが一般的な手法だと思うのだが、努力ではなくコネを頼ろうとしているのがものすごくリアルである。果たして、みんなで意見を出し合って素敵な動画を作る展開に落ち着くのだろうか?


いずれにしても、レゴフレンズは日本で放送される女児向けアニメとしては、極めて異質である。リアルなガールズライフが描かれるため、前枠の『アイドルタイムプリパラ』から続けて観た人には拒否感が芽生えたかもしれない*1

 

黒船の弱点

レゴ感のなさ

この黒船が弱点を抱えているとすれば、大きく分けて次の2点であろう。ひとつは、レゴ感がないことだ。レゴフレンズのミニフィグ(レゴ人形)は、従来の黄色い人物ではなく、アニメ同様の人間らしいものになっている。そのため、何も知らない人からは、レゴであることがわかりづらい。2話ではリムジンとバイクで犯人を追いかけるというレゴアニメらしいシーンがあったのだが、レゴアニメが乗り物を推していることを知らなければ、レゴアニメらしさは伝わらないはずだ。

 

女児への需要

もうひとつは、女の子への需要があるのかという不安である。レゴといえば、男の子が好きそうなお城や騎士のイメージが強い。それを払拭(ふっしょく)するのがレゴフレンズの狙いなのだろうが、日本の女児向けアニメのお約束とあまりにも違いすぎるので、受け入れられるのか心配な部分がある。もちろん、『アバローのプリンセスエレナ』も放送されているが、「女児向け」レゴブロックは女児に受け入れられるのだろうか? レゴフレンズには日本市場の逆境をトモリョクで乗り切ってほしい。

 

追記

『レゴフレンズ』は、地上波で仕切り直している上、作品自体にもいくつか形態があるようだ。YouTubeは1週間限定配信で、地上波版第1話は既に観られないようになっている。今YouTubeに上がっているのは、地上波版とは違う第1話なので、誤解のないようにしていただきたい。

*1:テレビ東京では、『アイドルタイムプリパラ』の次の放送枠に位置している。

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