ホビーアニメを観ていたらいつの間にかアホになっていた

現在放送中の子ども向け番組を中心に、アニメや特撮ドラマについて書いていく。毎話「感想」を書くわけではなく、気になった話数や一般的な議論に関する記事を書く予定だ。

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治らなくても、病気と生きていく 『仮面ライダーエグゼイド』が教えてくれたこと

死んだんじゃない、見えなくなっただけ

『仮面ライダーエグゼイド』が最終回を迎えた*1。発表当時はデザインからモチーフまで全てが奇抜だったこの作品も、今や多くの人の心を掴んでいる。


その『エグゼイド』がどんな作品だったかというと、ゲームをサブモチーフに据えて、医療の大切さを説くというものだ。主人公の医者がゲームで戦う。こうとだけ言っても、未見の人はまるで意味がわからないだろう。


より正確に言うとすれば、ゲームから誕生した架空のウイルス及び病気を登場させ、病気とは何か、医療とは何か、病気とどのように付き合えばよいのかを、視聴者にわかりやすく示してくれた。医者や注射というと、大人でも忌避する人がいるが、そういう人こそエグゼイドを観てほしい。

 

www.tv-asahi.co.jp

 

 

仮面ライダーエグゼイドの趣旨

  • 「ゲーム病」で消滅した人は、姿を現すための(治療)方法が確立されていないだけで、生きている。
  • 病気は個性。人の生き方を方向付ける。
  • 生きていれば、ウイルスすらも命。
  • 健康とは笑顔になること。病気であっても、笑顔でゲームができればいい。

この記事では、以上の内容について書いていく。

 

 

「ゲーム病」の意味

遅ればせながら、大見出しに出した内容の説明をしたい。今作には、「バグスターウイルス」とそこから発症する「ゲーム病」というものがある。ストレス性の病気で、重症化すると患者は「消滅」する。「ガシャット」と呼ばれる変身アイテム(兼ゲームソフト)を使ったゲームに負けても消滅するが、いずれもゲームキャラクター(バグスターと呼ばれる)としてのデータは残る。


人間としての命を終え、ゲームキャラクターになってしまった……一見すれば、その人は死んだも同然だ。ところが、主人公(宝生永夢/演:飯島寛騎)はそうは考えない。「消滅」した人々は、肉体を失って姿が見えなくなっているだけ。今はデータを復元する手段がないが、技術が確立されれば、いずれ根治することができる。

 

病気は個性

主人公の宝生永夢は、自身もゲーム病患者だ。他の人間の仮面ライダーは、「適合手術」をすることで、ガシャット(ゲームソフト)からバグスターウイルスの力を取り込み、「バグスター」と戦う。しかし、永夢は病気だからこそ仮面ライダーに変身することが可能である。


彼に感染しているバグスターはパラド。初めは悪役として人々を苦しめるが、次第にバグスターが人間と同じ命である*2ことと、命の尊さに気づいていく。


これだけでは、病気は個性という話につながるまい。実はパラドは永夢に感染している間、「天才ゲーマーM」として永夢のゲーマー人格となっていた。つまり、アイデンティティの一部だった*3。パラドに感染していなければ、今の永夢はいなかった*4


現実の病気も同じだ。喘息に罹っていなければその人の生活は違っていただろうし、障害がなければスポーツ選手になっていなかったかもしれない。末期がんなど完治することが難しい病気や、治療法が見つかっていない病気もある。


そういう病気があるから他人より劣っているとか、死の運命にあると悲観するのではなく、病気を受け入れて共に生きていくというのも、現代の病気の考え方だ。

 

命の定義は

今作では、命を商品化し、管理しようとするゲーム会社社長(檀正宗/演:貴水博之)が登場する。そんな彼が扱う主力商品が「仮面ライダークロニクル」。プレイヤーが自らバグスターと戦う危険なゲームだ。ゲームに負けた人は前述の通り、消滅する。


正宗は大切な人が蘇ると考える人々の心理を利用し、人々に連鎖的に「仮面ライダークロニクル」を買わせていく。役に立たないと思った命は、商品価値なしとみなして平気で切り捨てる。最凶のバグスター「ゲムデウス」のウイルスを街中に撒き散らしてパンデミックを起こすなど、命に対する感覚が麻痺している。ライダーやバグスターをガシャット(変身に使うゲームソフト)の商品名で呼ぶのも大きな特徴だ。


そんな正宗に対し、人間とバグスターの一部は、人間とバグスターの命を守るために一致団結する。バグスターも命とみなす*5。生きていればウイルスすらも命という、MRSGREN(ミセスグレン)という定義から外れた考え方を示したのは、今作の中でも興味深い内容のひとつである。

 

健康とは何か

エグゼイドが目指している健康は、病気の根絶ではない。患者の笑顔だ。これは現在の健康の定義を、子どもにもわかりやすく言い換えた結果だろう。日本WHO協会によれば、

 

健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会訳)

| 健康の定義について | 社団法人 日本WHO協会


だから、楽しくゲームができる状態が、まさに健康だといえる。本来倒すべきバグスターと協力しているのもそういうことだ。たとえゲーム病であっても、楽しくゲームができれば永夢は健康なのである。


24時間テレビなどで障害や難病の特集があると、「かわいそう」という感想を持つ人もいるかもしれないが、彼らも心が満たされている限り、健康だ。

 

医療への理解が深まった

エグゼイドを見て、医療への理解が深まった気がする。WELQやヘルスケア大学が問題になった今だからこそ、医療者ではない我々が、病気や医療に関する知識を蓄えなければならない。幸い、エグゼイドは医療監修として本物の医師を起用して、設定にも医療の知識や技術をふんだんに盛り込んでいる。


今回の記事は患者目線で書いたので割愛したが、医者のあり方についても言及していて、医者を志す人にも見てほしい作品になっている。普通の医療ドラマだと、どうしても医療機器メーカーとの癒着など、政治的な問題が強調されがちだ。でも、『総合診療医ドクターG』のような専門的な番組だと、素人にはわかりづらい。そういう意味では、エグゼイドは一般人が病気・医療や医者を理解するための丁度よい番組だと思う。


映像ソフトの発売は少し先になってしまうが、「東映特撮ファンクラブ(TTFC)」では、月額960円で作品を観ることができる。iOSでは、翌月にAppleアカウントの残高が0円だった場合、自動停止になる他、30日目が終わるまでに更新を停止すれば、会員は停止になるようだ。iTunesカードやGoogle Playカードで観ることができるので、時間がある方はぜひ観てほしい。

*1:本来、この枠は10月から翌年の9月までの1年間の放送であるが、10月からの大型改編に備えて8月で終わることとなった。後番組の『仮面ライダービルド』は9月中は朝8:30〜、10月からは朝9:30〜の放送なので、録画視聴を予定している人は特にご注意願いたい。

*2:消滅しても死んだわけではないという話にも繋がる。

*3:あくまでアイデンティティの「全て」ではないことを誤解してはならない。眼鏡をかけている人を「眼鏡だけの人」とみなすのは、大変失礼なことだ。

*4:永夢は、幼い頃に病気(実はゲーム病)にかかったことで、医者に興味を持ち、志すことになった。

*5:本来、ゲームキャラであるバグスターは何度でも復活できるが、正宗は管理者権限で「絶版」にすることができる。人間とバグスターたちは、バグスターが完全消滅させられるという経験を通じて、ゲームプレイヤーとゲームキャラクターが同じ命であることがわかった。

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