おもちゃ売り場から消えつつあるジェンダー表記
スーパーのおもちゃコーナーを見てみよう。ボールから、ロボットから、お人形から、様々なおもちゃが並んでいる。だが、よく見てもらいたい。ヒーローのおもちゃのコーナーに「男の子用」、ドールハウスのところに「女の子用」と書かれてはいないだろうか?欧米ではと言ってしまえば馬鹿と認定されるだろうが、敢えて言えば、欧米ではジェンダーを明確に区別したおもちゃの広告を廃止する動きが進んでおり、英国のトイザらスのウェブサイトでは、ついに男の子向け・女の子向けという表示をなくしたそうだ*1。実際に検索をかけてみればわかるが、for boysやfor girlsといったフィルターが存在しない。一方で、日本では未だに女の子だけがドールハウスで遊んだり、男の子2人がメンコやコマで対決したりするテレビコマーシャルが放送されている。それらを販促するアニメでは、おもちゃの使用者に(想定されている性別から見て)異性がいないケースすらある。このように、玩具を販促する日本のアニメでは、ジェンダーの固定観念が排除されていない。
平成仮面ライダーシリーズ
平成ライダーは意欲的に男の子向け・女の子向けの壁を打ち破ろうとしている。『仮面ライダーウィザード』は、男の子向けであるにもかかわらず、宝石の付いた指輪を使って変身する*2。同様に、仮面ライダー鎧武は、過去にプリキュアで扱ったダンスとフルーツというモチーフの組み合わせを、男の子のおもちゃにおいても扱った。旧約聖書の禁断の果実の記述をはじめとした果実に関する伝説を世界観に盛り込むことで、女の子っぽさを取り除いたのだ。しかも、ベルトのギミック(仕組み)は、ベルトにフルーツ(の描かれた錠前)をセットし、ナイフ型のレバーを押すことで、フルーツを真っ二つにするというままごとのようなものになっている。鍵と包丁という小さな子どもにあまり触れさせたくないモチーフを楽しいおもちゃにしたという点ももちろん評価できる。
だが、レギュラーの登場人物で女性ライダーを出したことも賞賛に価する。桃の仮面ライダー・仮面ライダーマリカは、敵組織の参謀として暗躍した。レギュラーの女性ライダーが成立したのは、ベルトが複数の人物で共通していたためだ。ウィザードで登場した女性の3号ライダー・仮面ライダーメイジも白い魔法使いのベルトを流用したものだった*3。このように、平成仮面ライダーは、女の子向けモチーフの男の子向けへの流用や、女性ライダーの投入によって、男の子向け玩具とその販促番組の可能性を広げている。
プリキュアシリーズ
仮面ライダーと同様、プリキュアも男の子向けのアイテムを女の子向けに変えて扱っているケースがある。『ドキドキプリキュア』では、『仮面ライダー剣』で扱ったトランプモチーフのヒーローをプリキュアのモチーフとして流用し、仮面ライダー剣の主人公の名前・剣崎一真を、スペードのプリキュア・キュアソードの人間名・剣崎真琴にした。翌年の『ハピネスチャージプリキュア』でも、変身アイテムが仮面ライダーやスーパー戦隊で使用されていたようなカードだった。3枚のカードを重ねてコーデを作るというのは女の子向けならではである。
同様に、Go!プリンセスプリキュアでは、スーパー戦隊で扱ったヒーローの鍵*4を、ドレスのデザインをあしらった鍵に変えて変身アイテムとした。途中で仲間になるキュアスカーレットは、不死鳥と炎をモチーフにしており、女児向けアニメで忘れられがちな女性の力強さを表現していた*5。言い換えれば、「女の子は優しくてかわいい」というイメージを「女の子は強くてかっこいい」に変えるという試みがなされたのだ。こうして、プリキュアは女の子しか戦わないながらも、女の子のイメージを広げようと取り組んでいた。
イナズマイレブンシリーズ
男の子向けのサッカーゲームを原作としたイナズマイレブンでは、シリーズの一部の作品で、少年サッカーの試合に少女が参加する。公式の試合というよりも、サッカーを悪用する組織と対決するなどの時にチームに入っている(敵味方問わず)。男子サッカー部の活躍を描いている作品では、女子の仕事はマネージャーだけになってしまう。そのため、悪の陰謀というゲーム原作ならではの要素が入ったイナズマイレブンは、スポーツアニメとしては画期的だ。『イナズマイレブンGOギャラクシー』では、11人の初期メンバーに少女キャラクターが2人入っており、選手が13人しかいないため、出場率が高い。一方で、依然女子マネージャーは存在しており、ジェンダーの役割の固定観念までは打ち破れていないという感がある。シリーズが終了しているためなんとも言えないが、今も続いていたとすれば、欧米の圧力で少女キャラクターの比率が増したのではないだろうか?
ダンボール戦機シリーズ
ダンボール戦機シリーズ*6でも、ロボットは男の子向けだという固定観念を捨て去ろうと努力はしている。特に、ダンボール戦機ウォーズ*7では、学園モノということもあり、名ありの少女キャラクターが多数登場する。日本人ではないという設定のキャラクター、肌の黒いキャラクターも登場しており、多様性にはかなり配慮しているようである。設定上、少女だけのチームや少女だけのクラスも存在するが、多くのチームは男女混成である。
このシリーズでは、少女キャラクターは救われる対象というよりも、戦士である場合が多い。ダンボール戦機Wでは、むしろ、古城アスカ*8が弟の作ったロボットを使って活躍していた。一方で、ダンボール戦機Wのメインキャラであるジェシカ・カイオスのロボットは、メインキャラで唯一プラモデルになっていない。いずれにせよ、ダンボール戦機は少女のキャラクターを積極的に投入して、ロボット=男の子のおもちゃにならないよう配慮していた。
『プリティーリズム・レインボーライブ』
女児向けアーケードゲームを原作とした『プリティーリズム・レインボーライブ』では、少年キャラクターが活躍した。メインであるゲームの販促に全く関係のない少年キャラクターに、CGダンス映像がついた。前作までは、少年キャラクターは、どんなに本筋に関わってきても、CGダンスを披露することはなかった(手描きはあった)。それまで、少年キャラクターはあくまで恋愛の対象であり、主人公たちをサポートするキャラクターだった。だが、今作では少年キャラクターがやや主体的になり、ダンス対決や、少女たちの絡まないストーリーを展開させていた。ジェンダーの壁を打ち破り、少年キャラクターだけで単独映画化もしている*9。これは、従来の男の子向け・女の子向けの概念を覆す上で、重要な事件だったのかもしれない。
確認した通り、日本の玩具販促番組において、男の子向け・女の子向けの壁は依然存在する。女の子向けだと思われていたものを男の子向けにアレンジしたり、男の子向けのおもちゃを販促するアニメで女の子のキャラクターを大量に投入したりしても、根本的な解決にはなっていないのだ。海外が、玩具がそれとなく示すジェンダーの固定観念をなくそうと尽力している中で、日本は明白にジェンダーの固定観念を示している表示や表現ですら排除できていない。このままこの状況が続けば、2020年の東京オリンピックまでに「みっともないジャパン」が海外に暴露されてしまうだろう。だが、当初男の子向けだったポケモンや妖怪ウォッチが、ジェンダーを問わず人気になっているという例もあるのだから、日本もやればできるはずだ。
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*1:Kids' Games & Toys | Toy Shop | Toys R Us
*2:赤外線通信を利用して、ベルトに指輪をかざすと音が鳴る仕様になっている。2号ライダーの仮面ライダービーストは(宝石のウィザードに対して)金のベルトと金の指輪で変身する。
*3:そもそもメイジは劇場版の量産ライダーだったため、メイジを準レギュラーの女性ライダーにする上で特別な費用はかかっていない。変身者の稲森真由も敵幹部・ミサと兼役だった。
*4:『海賊戦隊ゴーカイジャー』のレンジャーキーは、スーパー戦隊シリーズのキャラクターの人形の形をしており、変形させるとケータイ型変身アイテムに挿す鍵になる。その人気から、ゴーカイジャー以降の作品もレンジャーキーになっている。
*5:そもそも、『Go!プリンセスプリキュア』自体が女性の独立を描いた作品で、「プリンセス」を夢見る少女が、ディスダークとの戦いを通じて、1人前の「プリンセス」として成長していくという内容だ。
*6:強化ダンボールが高度に発達した世界で、強力な小型ロボットLBXを操る少年が悪の陰謀に立ち向かう物語。
*7:とある島のLBX専門学校で、少年少女たちがLBXを使った楽しいバトルゲームをする物語。
*8:視聴者がデザインした「ヴァンパイア・キャット」を使うキャラクター。一人称が俺で、男の子と仲良くしているシーンが多いが、実は女の子。続編のダンボール戦機ウォーズでは、登場人物の回想から、長髪で”女性らしい”身なりになったことがうかがえる。あくまで第三者の意見として回想されていたものであり、本人がどう思っていたかは定かではない。
*9:どちらにせよ女性向けであることに変わりはないが。