戦隊映画と単純なストーリー構成
この記事は、『劇場版動物戦隊ジュウオウジャードキドキサーカスパニック』について言及していて、ネタバレを含む。まだ見ていない方は劇場に足を運んでいただきたい。
- 『劇場版ジュウオウジャー』はヒーローショーのフォーマットを利用している。
- わかりやすいピンチを作ることで、観客の応援したい意欲を高めている。
- 応援上映はできないが、心の中で応援してほしい。
スーパー戦隊映画というと、テレビ本編と同じ短い時間でやっていて、スペシャル感がないというイメージがある。ゲストで第三勢力が現れ、ゲストヒロインが攫われる。スーパー戦隊が立ち上がり、ヒロインを救い出し、敵を倒す。そんな映画が多い気がする。『劇場版動物戦隊ジュウオウジャードキドキサーカスパニック』の場合、宇宙サーカス団の団長・ドミドルによって子どもたちとジューマン、キューブコンドルが攫われ、ジュウオウイーグルとジュウオウザワールドが助けに行く*1。表題のサーカスは、ジューマンのサーカスのことで、CGエフェクトを取り入れたエンターテインメント性の高いものになっている。これを全体的に取り入れており、ジュウオウジャーの一部のアクションには、サーカスを意識しているものもあった。
何かひとつ、ヒーローに関係してエンターテインメント性の高いものを挙げるとすれば、私は間違いなくヒーローショーと答える。ステージの上で、記号化された正義と悪による戦いが繰り広げられる。実はヒーローショーのフォーマットも戦隊映画とよく似ていて、子どもがステージ上に上げられることがある。何を隠そう。『劇場版動物戦隊ジュウオウジャー ドキドキサーカスパニック』は、ヒーローショーのフォーマットを利用したエンターテインメント映画なのだ。
邪魔されるステージ
今回のヒーローショーでは、サーカスという他のイベントに割り込むという形が取られた。普通のヒーローショーであれば、ジュウオウジャーが会いに来てくれるというイベント告知から始まり、ドミドルがその会場を乗っ取るのだろう。今回はジュウオウジャーが勝手に現れたが、ヒーローショーでは、観客にジュウオウジャーを呼ばせることが多い。ヒーローを呼ばせることで観客がヒーローショーに参加でき、観客のコミット率(貢献度)が上がる。今回は呼ばせることができないため、CGをふんだんに使ったサーカスによって観客の注意を引き、そのまま注意をジュウオウジャーに移行させた。いずれにしても、悪役が邪魔をするというのは、観客をヒーローショーに結びつける神聖な儀式なのだ。
攫われるヒロイン
ヒーローショーにおいて攫われるヒロインは、子どもだ。今回も子どもが攫われており、ヒーローショーと合致する。この映画の場合は、ヒロインにもドラマを作っている。攫われたジューマンの子ども・ペルルは、両親を失い、キューブコンドルだけを頼りにして生きてきた。そんな中、キューブコンドルがドミドルの手に渡ってしまい、悪事に利用されてしまった。ヒーローショーでは、ヒーローが洗脳されて悪事を働くといった描写は分かりづらくて好まれないため、キューブコンドルが悪用される展開は映像ならではだと思う。
敗北と応援
敗北と応援、それから復活もヒーローショーにおいて大事な流れだ。勝ちっ放しでは応援する意味がないので、観客の注目度も下がる。でも、強力な敵を前に負けてしまえば、観客(特に子ども)は応援したい気持ちになる。ヒーローショーでは、観客の応援がヒーローの力になるので、応援によってヒーローは復活する。この流れは、この映画にも利用された。30分に満たない戦隊映画では、心情の変化が描きづらいので、誰にでもわかる普遍的なパワーアップ方法が求められる。そのひとつが応援なのだ。今回は、子どもたちの応援によってジュウオウジャーが復活した。
強化される敵
ところが、長いヒーローショーになると、敗北の流れを繰り返す必要性が生じる。何回も応援するのでは疲れるし、ワンパターンで観客も退屈してしまう。そこで、敵が強化され、ヒーローもそれに対抗してパワーアップすることになる。パワーアップについては次の項目で説明するが、ここではまず、その敵について言及する。今回は、巨大化したドミドルがサーカスと合体して歯が立たなくなった。「最強の敵」を出されることで絶望感が高まり、観客の注意と応援したいという意欲を掻き立てることができる。
新たなる力
次に、最強の敵を前に、ヒーローはパワーアップする。これが応援と入れ替わることもあるが、それはその時その時で異なる。ヒーローが自力でパワーアップする場合は、フォームチェンジや強化武器が登場する。今回はスーパー戦隊なので、巨大メカで対抗した。キューブコンドルがジュウオウジャーを助け、トウサイワイルドキングに武装し、ドミドルを倒したのだ。自力パワーアップには他のヒーローの助太刀も含まれるが、今回はジュウオウザワールドの参戦は最低限のものだった。新しいヒーローが登場した際、観客は「おおっ」となる。これは文脈や説明のない突然の登場である。一方、今回のコンドルは、助けられたメカが恩返しをするというそれなりのストーリーがある。これが映像だからこそできることだ。生のショーでは、観客が手にできる情報量が限られるため、伏線を張りづらいのである。このように、敗北から復活の流れは観客の注意を引き、応援したい気持ちを高めるために役立つのだ。
心の中でジュウオウジャーを応援しよう!
ここまで説明してきたように、『劇場版動物戦隊ジュウオウジャー』は、ヒーローショーのフォーマットを映像に落とし込んだエンターテインメント映画だった。最近の映画では、『KING OF PRISM by PrettyRhythm』や『劇場版ガールズ&パンツァー』など、観客に応援させるものが登場している。尺の長い戦隊&ライダーの夏映画ではそれができないが、もう一度観る機会があれば、是非、心の中で応援して観てほしいものだ。
*1:動物戦隊ジュウオウジャーは、人間と異世界から来た動物人間「ジューマン」がチームを組み、悪の軍団「デスガリアン」に立ち向かう特撮ドラマだ。デスガリアンは、宇宙をおもちゃにして、ブラッドゲームを行っており、それをジュウオウジャーに邪魔されたことで、地球を襲い続けるようになった。ジュウオウイーグルはレッド、ジュウオウザワールドは黒・金・銀の3形態を持つ追加戦士だ。ドミドルはそれとは関係ない第三勢力だと劇中で判明している。