『デジモンユニバース アプリモンスターズ』第1話
読書好きの少年・新海ハルは、自分が主人公タイプの人間でないことについて悩んでいた。そんなとき、街中の機械で誤作動が起き、ハルに「主人公」になるよう迫ってくる。誤作動した自販機の中からアプリドライヴ(今作のデジヴァイス)を手に入れ、アプリから生まれたデジモン・アプモンの動きを見ることができるようになった。ネットの海で謎のモンスターに襲われていた検索アプリのデジモン・ガッチモンは、検索でハルの元に辿り着き、ハルにバディになるよう説得する。
そんな折、メッセージアプリのメッセモンの暴走で、ネットに埋もれていた情報が次々と暴露され、母がネットに投稿していたハルのプライバシーも拡散されてしまう。ハルが好意を寄せるクラスメイト・樫木亜衣も、プライバシー流出の被害者のひとりだった。ハルの親友である大空勇仁は亜衣を優しくフォローするのだが、自分の脇役さ加減(不遇)に対して落ち込んだハルはその場を逃げ出してしまう。しかし、プライバシーの流出は街中に広がっていた。ガッチモンの導きでメッセモンの元に辿り着き、ハルはARフィールドに入った。ガッチモンをアプリアライズ。ガッチモンとの連携でメッセモンを倒したのだった。
実に4年半ぶりの新作
『デジモンユニバース アプリモンスターズ』は前作『デジモンクロスウォーズ』から4年ぶりに作られた完全新作のシリーズである。あれから、世の中の事情は色々変わってきた。宗教を利用した悪質なテロ行為、iPS細胞で日本の学者がノーベル賞を受賞したこと、性の多様性に関する問題、東京オリンピックの開催決定、全米を揺るがす警察による黒人差別の問題、マイナンバーの導入、そして、スマートフォンの進化と普及……壮絶な4年間だった。そういう風に色々変わってきたこの世の中に生きる子どもたちの冒険を新たな切り口で描いたのがこの作品である。アプモンは、デジモンの未来を担う全く新しいコンテンツなのだ。
自分が主人公らしくないと悩む主人公
今作の最大の特徴は、主人公が弱気な文学少年であることである。そもそも、文学が好きと言えば、ヒロインにありがちな設定だ。一般的に、少年アニメのヒーローに求められるのは、バカで、活発で、スポーツができて、みんなをまとめあげられるような存在である。にもかかわらず、ハルはおそらく、そのどれにも当てはまらない。ハルは、主人公というには、申し訳ないが、規格外だ。だが、アプモンはそれを敢えてテーマにしている。
そもそも、デジモンというと、主人公たちが冒険の中で悩みを解決するというアニメだと節がある。それが色濃く表れるのが、悪の手先にされていた子どもだ。自分はどうやって罪を償っていけばいいのか、あるいは自分はどうすればデジモンたちと再び仲良くなれるのかー子どもたちは、そういった悩みと冒険の中で向き合ってきた。その一環が、ファンタジー小説の主人公に憧れながらも、本を飛び出した現実では積極的になれないというハルの悩みだ。そういう意味では、物語の目標がしっかり提示された良い第1話だと思う。『デジモンユニバース アプリモンスターズ』は、ハルを主人公にするための物語なのだ。
世相の反映
こうした主人公の設定は世相を反映しているように思われる。日本では企業にとって都合のよい画一化された人材が求められる一方で、世界では多様性への理解が求められている。社会の求める人間像と異なる子どもは社会の主役になれない、ということを否定することが急務になっていて、普通と違う子や弱い子を救済する動きが広まっているように思われる。アニメの世界でもいろいろなキャラクターが求められるはずで、しかも多様なキャラクター*1を設定することは、表現の多様性にもつながる。まさに、普通と違う主人公にすることは一石二鳥なのだ。
かつての子どもたちも見ている
ただ、こうしたうじうじしたキャラクターを主人公にすれば、子どもに人気が出ないかもしれないというリスクはある。それをカバーするのが、大きなお友達の役割だ。デジモンアドベンチャーtri.シリーズでデジモンへの関心が高まっている中、こうしたデジモンというコンテンツをつなぎとめる作品をリリースすることで、元子どもたちの注目を集めることができる。
それから、ハルは深夜アニメやライトノベルにありがちなキャラクターでもあり、大人の心を掴む可能性は十分ある。そして、大人は「おもちゃ」を使っているキャラクターと「おもちゃ」を独立して考える。つまり、アプリドライヴの玩具やアプリモンスターズのデータカードダス筐体などに投資してくれる可能性が高い。このように、普通の販促アニメが「ナヨナヨ系主人公」を採用するより、リスクが少ないのである。
むしろ、ハルが自らが主人公であるかについて悩む様子は、現代の社会や大人に束縛されて、自由を制限されている若者に近いものを感じる。高い年齢層に対しても共感を集め、作品として成功する可能性は十分ある。このキャラクター設定はリスクではなくポテンシャルなのだ。
時代に合わせた進化
17年前に比べ、IT技術は大幅に進歩した。そのため、IT周りの設定や美術がガラッと変わっている。前作クロスウォーズで登場したデジクォーツの雰囲気は守りつつも、バンク中の粒子の動きがいちいちリアルであったり、ホログラムのノイズの表現やデジタルな数字が体の上で立体的に浮き出る表現が近未来感を醸し出していたりする。
ウイルスに感染したアプモンによって発生する被害も、現実にある情報流出やメッセージアプリの悪意のある書き込みに類似している。それらを、アプモンという媒体を使って、わかりやすく表現している。スマートフォンの便利さの裏に潜む脅威もうまく表現できていると思う。身近なアプリに関する話題と近未来的なCGの絶妙なバランスによって、ITの進歩とそれが生み出す弊害を、看過できない身近な問題として提示しているようにも思われる。
超進化したデジモンの今後
ほんの数年前は、デジモンのシリーズは終わって、もう戻ってくることはないものだと思われていた。しかし今、商業的な期待を背負って復活することができた。いや、むしろ進化して戻ってきていると思う。アプリドライヴやゲームソフト、データカードダスなど、期待できる要素が山ほどある。過去の栄光に浸って老害化するのもいいが、新しい作品に目を向けることも大切だ。
*1:今回の場合、上に示したようなスポーツが得意ではなく、明るい性格ではない子。