キャラクターとともに成長するキャスト
8/31にリリースされたアイドルゲーム「スクールガールストライカーズトゥインクルメロディーズ」(略称・スクメロ)では、声優としては全くの新人である5人がメインキャラクターに起用されている。
実際、アイドルアニメに新人が起用されるケースは珍しくない。『アイカツ!』でメインキャラクターを演じた田所あずささんや大橋彩香さんは、当時は新人だった。
『KING OF PRISM』にも、声優の経験がなかった五十嵐雅さんをはじめとした、フレッシュな面々が出演している。
素人なのに見ていられる理由
これがゴールデンタイムのドラマや時代劇であれば、「この大根役者が!」とテレビの前の視聴者が怒鳴り散らしていたに違いない。
でも、アイドルアニメでは、不思議と素人の演技に見入ってしまう。なぜかといえば、理由はシンプル。
それは視聴者が、キャラクターとともに成長するキャストの様子を見守りたいからだ。
成長する新人
ベテランが当てるアイドルはウケない
脳内にイメージを膨らませよう。『アイドルマスター』や『ラブライブ』の声優が、ベテランだったらどうだろう?
若い子よりも魅力を感じないということもあるかもしれないが、演技がしっかりしていて、初々しさを感じない。
ダンスはできないかもしれないが、キャラ声で歌うときはしっかりしている。しかし、アイドルに求められるフレッシュさは、ほとんど感じられない。
ただ単に学生のキャラクターであればベテランでも演じられるのだが、新人アイドルらしさを醸し出せるのは、新人声優だけなのかもしれない。
ところで、今回の「スクメロ」も、すでに人気の声優が多い作品だ。新人声優を擁立したのは、アイドルを扱うゲームとして当然のことであろう。
先輩アイドルは人気声優
アイドルアニメの法則として、先輩アイドルに人気声優がキャスティングされるというものがある。例えば、前述の『アイカツ!』でいえば、寿美菜子さん(『けいおん!!』など)が出演していた。
先輩アイドルは成長しないわけではないのだが、メインキャラよりはお兄さん・お姉さんらしく描かれる。これからの活躍が楽しみな後輩とは性質が違う。
新人を育てるのは音響監督
新人声優が、もっぱら共演者の先輩から指導を受けているのではないかと思っている人もいるかもしれない。
だが、アイドルアニメでは、指導のできるようなベテランがキャスティングされていないケースも多い。
そのような現場でキャストを指導するのは、音響監督だ。音響監督は収録に携わる仕事であり、演出に合うように演技指導をする*1。
もちろん、アドリブなどでキャスト側が音響監督にアプローチする場面もあると思うが、音響監督が声優に与える影響は大きい*2。
キャラを作っていく中で、声優として成長していく。その過程で最も大きな役割を果たすのは、音響監督といっても過言ではない。
参考
新人を使うメリット
新人ならライブが可能
アイドルのキャラに売れっ子やベテランを起用する最大の問題が、ブッキングの難しさにある。
『KING OF PRISM』の場合は、先輩アイドルのキャストのライブやイベントがなかなか行えず、映画の公開から半年強でようやく実現した。
シリーズものの続編なので仕方がない部分もあったが、人気キャストがイベントに出演できなければ、商機を失うことになりかねない。
しかし、新人を起用すれば*3、イベントが開きやすく、番組につきっきりになってもらえる。
レッスンに時間がとれる
ダンスの素人が歌って踊るため、レッスンの時間は多くとる必要がある。新人はレッスン時間がとれるので、アイドルアニメのキャストとしては理にかなっている。
アイドルとは違うが、バンドアニメ『バンドリ!』では、メインバンド2組のキャストが実際に楽器を演奏している。
サブのバンドには有名声優を起用しているが、リアルなバンド活動は行わない。たとえライブの日程が調整できたとしても、忙しすぎて練習時間がとれないからだ。
経験者は何人かいるものの、ほとんどが素人だったバンド。練習時間がとれたから、ライブをすることができた。
ジャンルは少し違うが、アイドルも同じである。歌うだけではないということを忘れてはならない。
思い入れを持ってもらえる
キャストが未熟なため、かえって強い思い入れを持ってもらえる。
人気声優だと役者の名前が先行してしまうことが多い*4が、新人声優はキャラとして記憶される*5。これは、朝の連続テレビ小説や特撮ヒーロー物のキャストが役名で覚えられているのと同じだ。
演者としては芸名が覚えてもらえなくて悔しい部分があるかもしれないが、ファンは「私が◯◯を育てた」という意識から、作品が終わった後も見守ってくれる。
番組としても、後に、◯◯を輩出した番組として伝説になるし、放送中は◯◯に思い入れのある人の投資が自分に返ってくる。
ファンが声優を「育てる」という意識は傲慢(ごうまん)かもしれない。だが、キャストのために投資するというのは、今のサブカルチャー市場を支えている大事な考え方のひとつだと考えられる。
声優が増えるという懸念
新人を起用するアイドルアニメが増えることは、成長への期待という面では大変好ましい。ただし、声優の未来という視点で考えると、必ずしもよいこととはいえない。
現在、アニメ業界で問題になっているのが、アニメーターの賃金が低いことと、アニメが増えすぎて制作サイクルが崩壊していることだ。
この流れを是正するとすれば、アニメは当然減るわけで、仕事がなくて露頭に迷う声優が増える可能性が高い。もともと歌手や俳優だった声優は元の仕事に戻ればよいが、声優専門の人は行き場を失うかもしれない。
カネ目当てでアイドルアニメやゲームをバンバン出していくと、アニメーターだけでなく、声優も使い捨てることになるのではないだろうか?
引退したらファンも悲しい
これは声優本人だけの問題ではない。応援してきたファンにとっても、好きな演者が引退することは悲しいことだ。私も、それを特撮俳優で何回か経験した。
普通のアイドルにおいては、グループを脱退することを「卒業」(成長のステップ)として肯定的に捉えるが、仕事がないから芸能界を辞めることはわけが違う。
仕事が減ったことが原因で、声優が芸能界を引退することのない未来を願う。
*1:もちろん、基礎となるのは養成所などでのレッスンのはずで、全くのド素人が現場で急成長するわけではない。
*2:例えば、『北斗の拳』でおなじみの千葉繁さんは音響監督もやっていて、その作品のひとつに『レゴニンジャゴー』がある。
そのアニメ自体には千葉さんは出演していないのだが、千葉さんらしい、千葉さんが指導したのだと一発でわかるようなキャラも何人かいる。
「このような声がほしい」という要望がキャストの演技力すらも形作っていくのだろう。
*3:新人でなくても、似たようなメリットを得られる場合はある。
『プリティーリズム』シリーズはキャストに売れっ子が多いものの、専属のアイドルを主題歌に起用して、ライブを行う。
一方、『アイカツ!』はいわゆる「マクロス方式」で、声優ではなく「歌担当」の専属アイドルが歌唱する。
*4:「杉田」「金朋」など、キャラクターが声優の名前で呼ばれてしまう。
これは、ドラマを説明するときに「山Pが」と言ってしまうのと同じことだ。
*5:作品名で××声優としてまとめられることもある。