大人に人気でも 商品展開に難ありか
VS路線を最後まで崩さずに幕を閉じた『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』(以下、ルパパト)。
話題性は高かったものの、評価が二分している。
この記事では、どこが失敗だったのかを考えたい。
おもちゃの失敗:保護者や祖父母を意識して
対立する勢力のおもちゃを2種類売るというのは、試みとしては興味深かった。
だが、ルパパト玩具は近年稀に見る大敗を喫した。
「男児向け」の定番である乗り物なのにだ。
ひとつには、ライバルのシンカリオンが強かったという理由もある。
しかし、売り方もまずかった。
前提:収集アイテムの存在
スーパー戦隊では2000年代あたりから、変身やメカの召喚に使うコレクションアイテム(以下、収集アイテム)が登場していた。
例えば、剣に宝石をはめるとか、ケータイにメモリをセットするといったものだ。
最近では音が鳴ったり、ロボット遊びのメカになったりするものもある。
ルパパトの収集アイテムもまさにメカだった。
普通の収集アイテムは単価は安いが、数が多い。
メカの場合、単価が高い反面、買う数を抑えられる。
食玩(お菓子のおまけ扱いのおもちゃ)、ガシャポンなどで廉価版を売っており、単価を抑えることも可能だ。
ロボがダブる問題:いろんなセットに同じメカが付属
ご家庭にとって困るのは、同じものを複数買ってしまうこと。
ルパパトの売り方では、これが起こりやすかった。
まず、変身アイテムに付属しているレッドのメカと、ロボに含まれているレッドのメカは同じものである。
それから、合体ロボの核となるメカ「グッドストライカー」は、ルパンレンジャーのロボとパトレンジャーのロボ、両方に付属している。
重複を防ぐには、ロボ一式を買わなかったほうの戦隊のメカを単品で買う必要があった。
おうちの方は詳しいわけではないので、重複を恐れて買い控えてしまった可能性がある*1。
わかりにくい売り方:どのおもちゃを買えば……?
お子様をお持ちの方は、お子様が好きなテレビ番組を完全に理解しているだろうか?
そうでない方は、友人の趣味を完全に理解しているだろうか?
イエスと言える人はなかなかいないはずだ。
ルパパトでも、どのセットに誰のメカが含まれているかがわかりにくかった可能性がある。
どのメカがどのロボになるのかについても同様である。
もう少し大きな子どもであれば、自分の欲しいおもちゃを手にとって親に見せることができただろう。
私も小学校中学年のときに、おもちゃ屋で欲しいベイブレードのキットを親に買ってもらったことがある。
でも、ルパパトの対象年齢の子であれば、保護者や親戚が買い与えることも多かったのではないか?
単品買いが前提になっている今作では、例年に比べ、混乱が生じやすかっただろう。
収集アイテムとうまく付き合いを
収集アイテムは、いまや子ども向け玩具展開では欠かせなくなっている。
消費者にわかりやすいパッケージや販売戦略が必要だ。
子どもが好きなものという観点も大事だが、保護者である大人が買いやすい商品が求められる。
ルパパトでは、メカ自体が収集アイテムになった。
変身アイテムとロボのそれぞれにレッドのメカが付属するなど、メカの重複が多かった。
単品で買う必要があり、作品をよく知らない保護者の混乱を招いた。
ストーリー:レッド同士の複雑な関係性
今作は大人のファンの間で、話題になった。
- ルパンレッドはパトレン1号に、囚われた兄の面影を重ねる
- パトレン1号はルパンレッドの理解者であろうとする
という構図が注目された。
でも、子どもには難しかったのではないかという批判には反論しづらい。
伝統的な要素の流用:スーパー戦隊らしさは残っている
ルパパトがスーパー戦隊らしくないという声も根強い。
だが、今作は挑戦的な要素ばかりではない。
過去作のDNAを受け継いでいる部分もある。
第一に、これまでも2戦隊の対立を描いた戦隊はあった。
最終的に和解しなかったのは今作が初めて、というだけだ。
第二に、Wレッドの対立は、伝統的な「レッドとブラックの間の対立」に近い。
過去作では、悪事を働くのではなく、レッドとの戦いを求めている戦士が敵組織にいる場合もある。
ライバルの存在自体は、スーパー戦隊では珍しいことではなかった。
そういう意味では、ルパパトはスーパー戦隊としての原型をとどめている。
その範囲で、ひとつの正義にとらわれないという新たな路線を作ろうとしたのだ。
対立が難しかったのでは?—「勧善懲悪」ではない第2の道
ただし、ルパンレンジャーとパトレンジャーのそれぞれの役割に対して、理解が得られたかは定かではない。
- お宝を盗むルパンレンジャー
- それを逮捕するパトレンジャー
- 両方と対立する怪人・ギャングラー
好きなヒーローに感情移入していく中で、もう一方が「ワルモノ」になってしまうことも考えられる。
仮面ライダーシリーズでは、異なるイデオロギーや悪の仮面ライダーを設定する場合もある。
でも、対象年齢がやや低いスーパー戦隊では、そうしたヒーローは完全なる悪か、途中で仲間になることが多い。
現状では、小さい子どもには「勧善懲悪」がわかりやすいという前提があるのだ。
王道にとらわれず、子どもにわかりやすい作風にするには、児童文学や発達心理学の知見が求められる。
飽きやすい作風? —子ども向け要素の重要性
一方で、「ドラマはあくまで大人向けであり、子どもは戦いを見ている。
ドラマを延々と続けていては、子どもが飽きてしまう」という考え方もある。
たしかに、とっかかりが少ないことも、子どもにウケづらかった要因として考えられる。
従来のヒット作では、遊びの中心となるわかりやすい動作や、三枚目キャラの存在があった。
例えば、『仮面ライダーオーズ』では、仮面ライダーに変身メダルを投げるサポートキャラがいた。
『獣電戦隊キョウリュウジャー』では、変身時にサンバを踊り、エンディングにもダンスがあった。
それに加えて、ブルーをはじめとする親しみやすいキャラクターの存在があった。
ルパパトでは、エンディング自体がなかったし*2、コメディテイストも控えめだった。
最初からシャケやエアロビクスを出しておけば、子どもの心をつかめたかもしれない。
ストーリーを大人向けに振り切ったとしても、子どもにわかりやすい・親しみやすいキャラは必要だったと思う。
2戦隊の対立や戦士同士のライバル関係は、スーパー戦隊シリーズに昔からあった。
とはいえ、ターゲット層には、快盗と警察の複雑な関係がわかりづらかった可能性は否定できない。
とっかかりが少なく、飽きやすかったと考えることもできる。
大人向けアイテム:プレバンの活用を
シリアスなドラマがウケて、おもちゃも売れている仮面ライダー。
スーパー戦隊との違いは何か?
あちらは、マニア向けの商品を専用のオンラインストア「プレミアムバンダイ」で売っている。
子どもに売れる見込みのない悪役のアイテムや、数話限定の収集アイテムなどを用意しているのだ。
大人向けアイテムには、劇中の名ゼリフなどが収録されることが多い*3。
完全予約制で、おもちゃ屋さんなどでは買えない。
しかしながら、最近ではプレバンありきでドラマ本編が進むケースも増えている。
スーパー戦隊でもプレバンの活用事例はあるが、ルパパトではアパレル中心だった。
リュウソウジャーでは、ぜひ大人向けアイテムを復活させてほしいものである。