ホビーアニメを観ていたらいつの間にかアホになっていた

現在放送中の子ども向け番組を中心に、アニメや特撮ドラマについて書いていく。毎話「感想」を書くわけではなく、気になった話数や一般的な議論に関する記事を書く予定だ。

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『遊戯王ARC-V』第128話 ズァークの事実と遊勝の真実

新世界と旧世界の住人の苦悩

前回までのあらすじ

融合次元・アカデミアの首領・赤馬零王が成し遂げようとしていたのは、各次元の人間のエネルギーを使って、かつてひとつだった世界を取り戻すことだった。零王は、かつての世界でリアルソリッドヴィジョンを開発した科学者である。しかし、リアルソリッドヴィジョンを使って破壊的なデュエルをする決闘者・ズァークが登場し、彼は世界を破滅に追いやるほどの力を手にしてしまった。

 

 

ズァークは召喚法の異なる4体の龍と合体し、ついに誰の手にも負えなくなった。責任を感じた零王は、自然の4つのエネルギーをカードに込め、ズァークを封印しようとするが、零王を愛する娘のレイがカードを奪い、封印術を発動してしまった。レイやズァークとともに世界は4つに分裂し、零王はスタンダード次元に飛ばされるのだった。

 

 

零王は記憶を失っていたが、今いる世界への違和感から、自分の脳を分析し、記憶を復元させた。融合次元へ移り研究を進めていたが、ついにセレナがレイの一部であることを突き止め、他の一部を集め始めた。零王の野望・アークエリアプロジェクトとは、カード化した人間の力によってレイのパーツを統合し、第5次元・アークファイブを作ることだったのだ。遊矢と零児はその計画を阻止すべく、零王にデュエルを挑むのだった。

 

 

 

第128話『決戦!精霊機巧軍(スピリット・テック・フォース)』

そして、今回、遊矢・零児と零王のデュエルを見つめる遊勝は、遊矢や遊矢とともに過ごした日々の真実を疑い始めた。一方では、瑠璃は遊矢の中に宿るユートが自分の言葉を覚えてくれていたという真実に感動する。他方で、遊勝は遊矢の生まれた時のことが思い出せない違和感、それから、かつて柊修造が話した不可解な子育て話を思い出した。遊勝は、自分の遊矢に対する愛、それから遊矢の自分に対する愛を否定し、悪魔に「育てさせられてしまった」ことを悔いていた。

 


一方、ズァークを抑えようと必死になっている遊矢は、ついにズァークの表出を許し、零王に大量のバーンダメージを与えてしまう*1。次回、遊矢はズァークを抑え込むことができるのか? 

 


ということで、今回は残酷な事実を前にして、愛していたはずの自分の子どもを信じられるかという話だった。零王は、柚子や遊矢たちが歩んできたこれまでの日々を全否定し、ズァークの討伐とレイの復活を目論む。その言葉に乗せられてしまった遊勝にこそ、違和感を禁じ得なかった人も多いと思う。この記事では、このエピソードで何が起こっていたかについてまとめたい。

 

2つの対立軸

このエピソードには、2つの対立軸があるように思える。

真実VS事実

ひとつは、真実と事実の対立である。遊矢やユートがズァークの一部であることは、今や否定のしようがない事実だ。しかし、柚子や瑠璃が遊矢やユートに対して抱いてきた想いや一緒に過ごしてきた時間は紛れもない真実である。それは、遊矢やユートが何者であっても変わることはない。しかし、零王にとって、遊矢たちはただのズァークであり、柚子たちはただのレイである。このように、彼らにとって彼らが何者で、どのように暮らしてきたのかという真実と、彼らが何者であるかという事実は対立している。

 


真実:遊矢は榊遊勝の息子でエンタメデュエリスト。柚子は柊修造の娘。
事実:遊矢はズァークの一部。柚子はレイの一部。

 


ところが、これだけでは対立軸としては不十分である。なぜならズァークが憎き敵であることとレイが愛する娘であることは、零王にとって真実だからだ。同じ人間である零王にとっても、真実は不変なのだ。

 

 

真実:遊矢は榊遊勝の息子でエンタメデュエリスト。柚子は柊修造の娘。
真実:遊矢は憎きズァークの一部。柚子は可愛いレイの一部。

 

 

では何が対立しているのだろうか?ここで考えたいのは、前の世界と4つの次元が表す対象である。4つの次元というのは、「今の世界」である。つまり、一部の国が軍事的な手段で台頭し、一部の国では政治家の過激な発言が支持される、東日本大震災と福島第一原発の事故を経験した後の世界である。

 

反対に、前の世界とは古き良き時代である。零王は、震災で愛する娘を失い、前に進めないでいる父親である。現実にも、他の人を救助しようとして亡くなったという人はいるだろう。

 

同様に、津波や原発事故で前の家に住めなくなり、今は別の地域で暮らしているという人もいるはずだ。彼らは全く別の世界に放り出されたのだが、今やその地域の住人として根付き、前の世界に戻れなくなっている人もいると思う。この喩えの場合、レイは避難先で友達ができて別れたくない子どもであろう。だが、零王は前の世界に戻りたくてたまらない。それが赤馬零王の正体だ。

 

現在の生活VS過去の生活

このように、今回のエピソードでは、避難先での新しい生活と故郷での古き良き生活というものが対比されていた。零王が追い求めている真実は、避難先で育った零児の真実とは異なるというわけだ。

 

今、零王はすっかり変わってしまった娘を大切な友達から引き剥がして、被災地に戻そうとしている。しかし、悲しい現実ではあるが、かつてレイだった彼女たちが望んでいるものは、現在の生活であって、その母なる大地での生活ではない。零王が本当に娘を愛しているのであれば、娘の変化を受け入れるしかない。


それから、前の世界が失われてしまった元凶は力の暴走である。これは現実世界で言えば、原発事故のことをいうのであろうが、現実と同様、まさに力が暴走していたと思う。つまり、あれは様々な人が力を濫用した結果であって、ズァークがみんなの声を聞いて力を暴走させたのと同じである。零王は過去の世界を若干美化しているようだが、古い生活も良いことばかりではなかった。


いずれにしても、零王の企みはそれぞれの方向へ前向きに生きていた人々を停滞させている。失ったものが存在した以前の世界への執着は、現在の世界を後ろ向きにしてしまうのだ。

 

まとめ

このエピソードでは、以下の2つのことが起きていた。

  • 赤馬零王は、榊遊矢らをズァークの一部とみなし、消そうとしていた。一方、柚子らもレイの一部とはみなしていたが、彼女たちが生きてきた真実を全て否定し、統合してレイにしようとしていた。

 

  • 赤馬零王は、古き良き昔の世界を取り戻そうとしていたが、娘は新しい地での生活にすっかり適応し、昔の世界には戻れない。でも、零王は昔の世界を取り戻したいので、強引に新しい世界を破壊し、統合された第5次元を作ろうとした。

 

このように、零王がやりたいことは矛盾を含んではいるが、多くの大人にとって切実な願いであると思う。2つの真実、2つの世界……どこに妥協点を見出すかが今後のカギになると思われる。

*1:今回使っていたEMガトリングールは、遊戯王5D’sクラッシュタウン編でロットンが使っていた「ガトリング・オーガ」を彷彿とさせる。遊戯王のアニメでは、行き過ぎたバーンダメージを与えることは悪がすることである。この時点では、ズァークは悪である。

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