2年目に突入しても終わらない戦い
『パズドラクロス』が2年目に突入した。おめでとう。主題歌も人気2人組のポルノグラフィティと、『ポケットモンスターXY』でもエンディングを担当していたJ☆Dee’Zに変わった。
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さて、1年目は終わったが、それほど区切られているというわけではない。竜人の里・ステラを狙うドミニオンは撃退したが、モルガンは行方不明のまま。竜人と人間の溝も埋まっていない。ジェストの本性は明かされず、ダフネスも未だ行方不明だ。それ以前に、父・キングの居場所は分からずじまいで、SDFの思惑は放置されたままである。
しまいには、竜人の里ステラと新ヒロインまで出てきてしまったのだから、風呂敷はむしろ広がっていると言えよう。大元の原作であるパズドラの人気が続いているためか、1年で終わらない覇権ムーブを見せている珍しい作品だ。
そして、今回はエースの里帰りを描きつつ、竜人の過去を掘り下げ、キングの居場所に関する新情報を出すという重要回になっている。ゆるいギャグを交えつつも、紛争は終わったのに帰還できない難民の現状や、竜人の自浄作用のなさへの嘆きを描いていた。禁断の地や「原始化」を巡る悪の陰謀も動き出し、ますます目が離せなくなっている。
今回は、「竜人の過去」「原始化の謎」「禁断の地・ユミルの謎」3つのトピックに分けて本編を振り返る。
(断言しておくが、52話だけ観ても間に合わない。特に、アナを演じる安済知佳さん目当てで観始めた方は、あにてれなどの動画サイトで過去の回を観ることを強くオススメする。)
第52話「三つの月の下で」
竜人の過去
ステラを守る戦いから帰還したエースは、水の街・クロッカスにある祖母・アンジーヌの元を訪れていた。ステラには壮絶な過去があり、力が隠されているという。アンジーヌは「あんな戦い」を繰り返してはいけないと言っていた。おそらく、エースの祖父にあたるヴァイグが亡くなったあの戦いのことだろう。
翌日、ビエナシティを訪れていたエースと幼馴染のハルは、黒服の男たちに囲まれた。SDFのニュード副官が現れ、部下の無礼を謝罪する。ニュードは、竜人たちにはいつの時代も争いが絶えず、民族に自浄作用がないことを嘆く。世界を救うためには、人間と竜人の血を引くエースの力(物理的な意味で)が必要らしい。
ある夜、竜人と人間とモンスターの「3つの月」の下で、ソニアはステラの歴史に想いを馳せる。かつて、竜人は強大な力を持っており、その力によって世界が滅びかけた。竜人たちはその力を封印し、一度は平和が訪れた。しかし、今再び、ドロップインパクトによって世界のバランスが崩れようとしている。同時に「3つの月」のバランスも崩れているようだが、竜人の手によってモンスターと人間は滅ぼされてしまうのだろうか?
原始化の謎
ジェストの命でステラにやってきたランス。ちょうどその頃、アナが脱走を試みていた。そこに鉢合わせたランスは、長老と掛け合い、原始化の秘密を手に入れようとする。きっぱり断られたが、なぜかランスは潔く諦めたように見えた。
しかし、ランスはアナを利用しようとする。脱走しようとした罰で部屋に軟禁されているアナに接触し、脱走を手伝うことを条件に協力を要請した。かつて闇の古老・ダフネス(現在行方不明)と内通していたデビは、ランスの動向を心配するのだった。
原始化といえば、前の木の古老ティンベルが亡くなる際にやっていたことである。現在、一部の古老だけの力である原始化はどうやら竜人が世界を滅ぼしかけた力、現実でいうところの核兵器らしい。力を持った人種が核兵器を持てるようになったらどうなるかは、考えなくてもわかる。竜人は過去の過ちを繰り返してしまうのか……? そして、ドロップインパクトとの関係性が気になるところだ。
禁断の地・ユミルの謎
エースの母・レナはキングが禁断の地・ユミルに行ったことを知っていた。花守でも花咲でもない。レナやソニアの口ぶりからして、ユミルに行けば世界の危機を乗り越える方法がわかると信じられているようだ。
各々がユミルに想いを馳せる中、ジェストは新たなバトルカップの開催を宣言する。ドラゴーザ島の危機に立ち向かうための先鋭チーム「ガーディアンズ」を結成するための「グランドバトルカップ」だ。ガーディアンズであれば禁断の地ユミルへの扉を開けることができるとジェストは言うが……
3つの種族の均衡
以上、今回のストーリーを振り返った。今回はなんといっても、竜人の歴史について想いを馳せずにはいられない。一部の竜人の誤った歴史認識が移民の排斥やテロ行為につながっている。龍喚士の技能を力の誇示のために使っていて、使役されるモンスターには傷つけられているものもいた。世界を滅ぼしかねない力を前に、3つの種族はバランスを取らなければならない。
依然帰島できない人間たち
ドミニオン騒動で島外に逃げた難民は未だにドラゴーザ島に帰ることができていない。おそらく今の状態だとドラゴーザ島に帰ることはできないだろう。経済は破壊されているし、差別はなくなっていない。中心的なインフラである竜人像の保護については、根本的な解決に至っておらず、いつテロが再発してもおかしくない。そして何より、闇の街ゼレモニの古老は、未だ光の古老ジェストが兼任したままだ。帰るための環境は整っていないとしか言いようがない。
もうひとつの問題は、自主避難者がビエナシティで生活できているということである。彼らは地元の名物(エクシオン焼き)のおいしい屋台を営んでいるわけであり、そこで生活を営んでいる。(杉田さんもっとマシなごちそうないんですか?) 郷愁以外の目的で帰る必要はなくなっているのだ。
残念なことに、住み心地が良い場所に新たな生活拠点を築くと、帰りたくても帰れなくなってくる。現地で結婚などしてしまえばなおさらだ。東日本大震災の事例からも明らかな通り、早くインフラを築かないと手遅れになってしまうだろう。
参考:
UNHCR - Refugee return and state reconstruction: a comparative analysis, Sarah Petrin (英語)
モンスターは蚊帳の外?
これは3つの種族間の問題だ。ドミニオンと正義の龍喚士の対立だけに注目すると人間と竜人の間の問題に捉えられがちだが、実はそれらの2つの種族とモンスターとの絆も大きく取り上げられている。竜人の里・ステラにおいても、たまドラ(タマゾーやデビのようなモンスター)が愛玩の対象とされていたようだ。
作中で悪とされている龍喚士の中には、モンスターに鞭を打ったり、モンスターを窃盗・密猟・闇取引したりする者もいる。逆にモンスターの中には龍喚士のことを想っているものもいて、モンスターは島社会の仲間に入りたいのに、実際には仲間になれていないことが伺える。ドミニオンの騒動で一番被害を受けているのは、実はモンスターなのかもしれない。モンスターは人間と龍喚士の輪の中に入れるのか? ステラから姿を消したたまドラはまた戻ってくるのか? 個人的に見守りたい。
竜人と自浄作用
竜人は古代から紛争が絶えない種族で、何度もその強大な力を暴走させてきた。せっかく先祖が封印した力も、今解禁されようとしている。みんなに均等な力があれば、戦争が起きないというのを「勢力均衡論」というが、現実では第一次世界大戦が起きている。核兵器が作られるようになってから、冷戦が始まってからは、核兵器から身を守るために核兵器を作るという考え方が強まる。力のバランスが崩れれば世界が終焉を迎えるかもしれないことから、「恐怖の均衡」とも言われた。
言うまでもなく、竜人が強力なモンスター・アポカリプスや原始化のような強大な力を再び手に入れてしまえば、世界を破壊する戦争になりかねない(特に今のアメリカとロシア)。現実世界にとって大事なことをパズドラクロスは教えている。
参考:
今なら見返せるパズドラクロス
『パズドラクロス』は、1年前は主題歌の雰囲気と本編の雰囲気があっていないように感じて、視聴者層のフォーカスができていないと思っていた。だが、今になって思えば、テレ東で経済や国際問題を勉強したい人にはもってこいだと思う。
それに、黄色いねずみの出る作品では3年に1回ぐらいしか出てこないテーマ(というか、それ以上の内容を扱っている)を1年以上かけてやっていることに好感が持てる。周りに国際関係学をかじっている人、初期の評判からパズドラクロスを忌避している人がいたら教えてあげてほしい。パズドラクロスはうまいぞ?
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『パズドラクロス』は、動画配信サイトのあにてれでも全話見放題(有料)で配信されている。