変身願望を持つあなたへ
あなたは変身したいと思ったことはないだろうか?
それは自分ではない誰か……あの子や、新しい自分に。
いじめられている弱い自分、親の言いなりになっている自分、家族や友達との関係でどうしようもない状態にある自分、そうした自分を変えたいと思ったことはないだろうか?
そんなあなたを応援する映画がある。
『パワーレンジャー』だ。
『パワーレンジャー』はあの日本の有名な5人組ヒーロー「スーパー戦隊」を海外で展開しているときの名前であり、それが日本に逆輸入された。
「戦隊モノ」は子ども向けだって?
これはそんな映画ではない。
子どもは2時間も黙って映画を観ていられない。
「戦隊モノ」を卒業し、青年期を迎えた人、成人して社会に出ようとしている人、すでに社会に出ている人に観てほしい作品だ。
※この記事は、まっさらな状態で映画を見たい方にはオススメしない。戻るボタンや閉じるボタンで帰ってほしい。
映画『パワーレンジャー』とは
問題を抱え、補習に通うことになった5人の若者。
どこでもないどこかへ行こうとしていた彼らは不思議な力に目覚め、宇宙を守る戦士「パワーレンジャー」の器となってしまう。
ティーンエイジャーという多感な時期にある不安定な彼らは、戦うことは愚か、パワーレンジャーに変身することすらできない。
果たして5人の若者は変身することができるのだろうか?
「スーパー戦隊」について知らないんだけど
今作を見る上で、40年以上の歴史を持つ「スーパー戦隊」について知っておく必要はない。
「パワーレンジャー」は彼らが獲得するアイデンティティのひとつに過ぎず、他のあらゆる戦士と同じ存在だ。
だから、パワーレンジャーが何なのかを知らなくても、鑑賞において影響はない。
テニスについて知らなくても『テニスの王子様』を読めるのと同じことである。
強いて言うなら、「スーパー戦隊」「パワーレンジャー」は、3-6人の若者が特殊な力で色違いのヒーローに変身し、チームを組んで悪に立ち向かう作品だ。
『恐竜戦隊ジュウレンジャー』の海外展開時のタイトルが『パワーレンジャー』になっていて*1、今回の映画はそのリメイク。つまり、ジュウレンジャーのリメイクのリメイクだ。
自分と同じ人はどこにでもいる
自分のことは誰にもわかってもらえないと思ってはいないだろうか?
でも、みんなあなたと同じように悩みを抱えている。
この映画は、そのことを同じ若者が5人いるパワーレンジャーというフォーマットを使って、表現している。
どんなに多様性が叫ばれる社会(よりにもよって米国社会)においても、自分と同じ人が全くいないわけではなく、共通の悩みを抱えている人もいる。
パワーレンジャーに覚醒したという共通の悩みを抱えた5人は、徐々に心を開いていく。
この作品を観たあなたも、暗く辛い人生に少しでも希望を持ってくれると嬉しい。
普通の若者が戦闘のプロになれるわけがない
この映画は都合のいいように進まない。
できるだけ明るい雰囲気になるよう心掛けられてはいるが、ご都合主義展開は控えめだ。
変身アイテムがあれば変身できるわけではないというのがその一例である。
そもそも、この映画には販促ノルマがほとんど課されていない。
販促ノルマというのは、グッズの販売を促進するために、画面上にグッズを一定時間「露出」させるノルマのことである。
通常のスーパー戦隊であれば、1話30分の間に2回は変身しなければならない。
だが、この映画(135分)での変身は2回だけで、変身アイテムを大写しにしていない。
言い換えれば、変身に対する制約がないのが今作の大きな特徴だ。
上にも書いた通り、映画『パワーレンジャー』は、変身アイテムがあればヒーローとして戦える戦隊モノではない。
むしろ、パワーレンジャー達が強くなるため、変身するためにもがく様子が描かれていて、「パワーレンジャーに選ばれたぞ!変身だ!」という感じではない。
最終決戦も100点満点の戦い方ではないので、若者だからそうなるよねというリアリティがある。
勇気や涙が奇跡を生まない展開を望む人、ファンタジーへの現実逃避を望まない人こそ、この作品を観てほしい。
パワーレンジャーが伝えたいこと
多分、あなたがパワーレンジャーになることはありえないし、共通の特殊能力を抱えた友達など作れないだろう。
だが、変身〈モーフィン〉するために努力することはできる。
身近な大人に悩みを打ち明けられなくても、どこかに、例えばネット上に同じ悩みを抱える人がいるかもしれない。
自分の中で抱え込まずに、誰かに相談しよう。
何かが変わるかもしれない。
そんなことは簡単にはできないだろうけれど、この映画を観れば、パワーレンジャー達が勇気をくれるはずだ。
*1:恐竜なのに「ジュウ(獣)」という名前は海外には伝わりづらいし、ユダヤ人への蔑称と同じ発音であるため、忌避されたという説が有力である。