監禁事件をめぐる被害者と加害者家族の感情
事前番組を経て、5月という異例の時期にスタートした『遊戯王VRAINS』。
大幅なルール変更と新ルールの導入という困難がありながらも、過去の事件をめぐる争いを45話という短い話数でまとめあげようとしている。
4月からは梶裕貴さん、八代拓さんらが演じる新キャラクターが登場し、新展開がスタートする*1。
1年目の区切りを前に、この作品で何があったかを振り返りたい。
遊戯王VRAINSとは
幼い頃、誘拐監禁事件に遭った主人公がその真相を解き明かすため、謎のハッカー集団に立ち向かう。
主人公はハッカー集団が追っていたAIを確保し、その意思を持つAIが生み出した新種族のカードを使って戦う。
- 10年前の誘拐監禁事件の真実
- 謎のハッカー集団の目的
- 意思を持ったAIの正体
がこの作品の1年目のテーマである。
物語の構図は単純に見えて、一言では表せない。
たしかにハッカー集団は悪なのだが、それなりの事情がある。
この記事では3つのテーマに言及しつつ、その事情にも触れていく。
10年前の誘拐監禁事件
主人公ら6人の子どもたちが謎の施設に監禁され、コンピューター相手に四六時中デュエルをさせられた。
子どもたちは勝たないと食事がもらえないなど、劣悪な環境におかれていた。
この事件は、通称「ロスト事件」と呼ばれる。
この監禁は匿名の通報者によって終了するが、その正体はわかっていなかった。
また、主人公は自分を励ます声を聞いた。その声の主も不明だった。
この事件はトップシークレットになっており、存在を知るものはごくわずか。
現在、主人公は正義のハッカー「Playmaker」となって、この事件の真相を追っている。
謎のハッカー集団
主人公が現在活動しているVRデュエル空間「LINK VRAINS」。
その空間を牛耳っている悪のハッカー集団が「ハノイの騎士」だ。
ハッカーは「イグニス」と呼ばれるAIを狙っている。
LINK VRAINSを管理するIT企業もこのAIを手に入れようとしており、主人公と三すくみの状態になっている。
事件の鍵を握るのは、主人公と口癖が同じ男「リボルバー」。
そして、AIの研究者「鴻上博士」。
彼らがAIを追う理由とはなんだったのか?
意思を持ったAIの正体
意思を持ったAI・イグニスは、力と記憶を失った状態で主人公に保護される。
だが、
- データの嵐「データストーム」を起こせる
- ハノイの騎士のデータを喰らう
など、行動と素性が謎に包まれていた。
ハノイの騎士を喰らうことで、イグニスは徐々に記憶を取り戻していた。
彼が何者であるかも、1年目終盤で明らかにされる。
明かされる真実
監禁事件はAIを作る実験だった
10年前の事件は子どもの行動を学習させて、AIを作るという人体実験だった。
その目的は、人類の後継種を作るため。
鴻上博士は6人の子どもたちからイグニスを作成しようとしたのだ*2。
しかし、イグニスが人間を超越するという見方が強くなると、鴻上博士はイグニスを処分しようと考える。
その後、イグニスは自分で作ったサイバー空間に逃げ込むなどして、行方不明になる。
それを追っていたのが、鴻上博士とリボルバー率いるハノイの騎士だ。
つまるところ、ハノイの騎士はロスト事件の尻拭いをする組織*3。
その第一の目的は、イグニスを確保することだった。
鴻上博士はIT企業に粛清される
これだけでは、ハノイの騎士の目的を説明できない。
鴻上博士は、ロスト事件の後、現在LINK VRAINSを管理するIT企業「SOLテクノロジー社」に拘束される。
イグニスを悪用しようとするSOLテクノロジー社は、鴻上博士を昏睡状態にした。
ロスト事件を通報した人物は、この結果を強く悔やみ、AIやテクノロジーを嫌悪するようになる。
ハノイの騎士の第二の目的は、SOLテクノロジーおよびAIへの復讐とみて間違いないだろう*4。
Playmakerとの宿命のデュエル
ロスト事件を告発し、主人公を励ました人物ーーそれはリボルバーだった。
彼が通報を後悔しているのは、実父を警察に売ってしまったからだ。
さて、主人公・Playmakerはリボルバーとのデュエル中に、彼が戦う理由を告白する。
それは、彼を救ってくれた人に恩を返すこと。
Playmakerは、その人が今戦っている敵だとは夢にも思わなかった。
それに気づいたリボルバーは、宿命の相手Playmakerと再び相見えることを望んでいた。
それが電脳ウイルスを使った大規模なサイバーテロ「アナザー事件」につながる*5。
そして、ハノイの騎士の最終計画が始まる。
リボルバーはLINK VRAINSごとイグニスを滅ぼすため、Playmakerとの最終決戦に臨む。
時系列の整理
ここで、時系列を整理する。
- 10年前のロスト事件で遊作らは被害に遭う。それはAIを生み出すための人体実験だった。
- 幼いリボルバーは、被害者を励ましつつ、事件を通報する。
- 通報の結果、首謀者である鴻上博士はSOLテクノロジー社によって、拘束される。
- 鴻上博士はイグニスを完成させたが、その危険性に気づき、昏睡状態にさせられる。
- リボルバーはハノイの騎士となって、AIを消滅させるために戦う。
- 遊作は隠蔽(いんぺい)されたロスト事件の真相を暴くべく、活躍。
- その過程で、イグニスが遊作の手に渡る。
- ハノイの騎士はイグニスの奪還と消滅に躍起になる。
- 最終手段として、ネット空間を消滅させるハノイの塔を建てはじめる。
- playmakerとリボルバーがデュエルをする。
あらためてVRAINSの魅力とは
ロスト事件の謎
VRAINS1年目の最大の魅力は、謎の事件の真相に迫るという物語の展開だ。
シリーズ4作目の『遊戯王5D’s』も「ゼロリバース」の真相に関する描写があったが、それとは異なる。
VRAINSは最初から事件の真相に迫るということがメインテーマだった。
1年目中盤まで事件の詳細をほとんど明かさず、視聴者の事件に対する好奇心をそそった。
その上で、人工知能イグニスという一見関係のないものを事件と関連付けた。
そして、敵将のリボルバーが完全なる悪ではない可能性を提示し、視聴者をいたたまれない気持ちにさせた。
2017-2018の4クールSFアニメの中でも指折りの作品ではないだろうか?
交錯する人間関係
今作では、
- 子どもたちを犠牲にして強いAIを生み出してしまった科学者
- 事件を通報して父の身を売ってしまったことを後悔している、テクノロジーが大嫌いになった青年
- 事件の被害者であり、自分を救ってくれた恩人に感謝したい青年
という3人の人物を登場させ、交錯する人間関係を描いた。
鴻上博士が間違っていることは明らかなのだが、AIを殲滅(せんめつ)させる使命と、博士の息子の感じている後悔が話を難しくしている。
最終回では、一連のハノイの騎士の事件は円満に解決するのだろうか?
そして、リボルバーの向かう先は……?
AIの未来?
AIの将来に関する描写も、注目に値する。
特に、AIが人類を滅ぼすというのは、SF作品では定番になっている。
この作品がどのような結論を出すのかは気になるところだ。
イグニスが人類を超越し、滅亡させる。
これはあくまで、鴻上博士のシミュレーションの結果である。
実際はどうなるかわからない、というのが遊作の主張だ。
シミュレーションを受けて、方針が変わっていく可能性もある。
ネットワーク世界の崩壊を防いだとして、イグニスはどうなるのだろうか?
スリルあるサイバー描写
序盤からデータをカード状にして渡すなど、「遊戯王×サイバー」の描写が多用されていたVRAINS。
最近では、ガレキが舞う中でデュエル*6をしていて、激しさを増してきた。
AIが欠けた腕のデータを修復するというシーンも記憶に新しい。
デュエルの舞台はVRコミュニケーション空間(TwitterのVR版)。
ハノイの騎士とのデュエルに負けたら、「ハノイの塔」にデータを吸収され、現実では昏睡状態になる。
愛らしいAI
一方で、イグニスがAIなのに的を射た予想をしない*7、お掃除ロボを調教するといったコミカルな描写もある。
これから作品を追う人は、そのようなコミカルなシーンも楽しんでもらえればと思う。
「Playback VRAINS」という総集編動画も公式にアップロードされているので、そちらを見るのもおすすめだ。
[rakuten:book:18854937:detail]
*1:『遊☆戯☆王VRAINS』に梶裕貴、八代拓、松田賢二、白石涼子出演 | アニメイトタイムズ
*2:主人公が手に入れたAIは、実は主人公から作られたもの。
*3:文章の流れの都合上、脚注に書く。実は、ロスト事件の被害者の1人がハノイの騎士にいる。彼の名はスペクター。彼は天涯孤独だったため、ロスト事件をとても刺激的に感じた。その上、解放された後にとてもつらいことがあった。彼はロスト事件の被害者かつ賛同者という矛盾に満ちたポジションで、リボルバーの右腕として暗躍する。
*4:鴻上博士自身は、SOLテクノロジーへの復讐を目的にはしていない。
*5:Playmakerと思しき人物を手当たり次第に電脳ウイルスに感染させ、昏睡状態に陥れる。
*6:データストームの中をサーフボードで駆け抜けるスピードデュエル。
*7:イグニスは、遊戯王にありがちな「攻撃力0かよ!」「このままじゃ負けだ!」などのヤジをいう係だ。論理的な思考は人間が担っており、イグニスはあまり論理的な思考をしない。