他に類を見ない2.5次元バンドアニメ『バンドリ!』
冬アニメの中でキラキラドキドキできなかったコンテンツに『バンドリ!』がある。『BanG Dream!(バンドリ!)』は2.5次元をウリにしたバンドアニメだ。つまり、声優が役に合わせてリアルでもバンドをするという現実とアニメ(ゲーム)が交差した作品である。現在、2.5次元活動をしているのは2組10人だけだが、実際にバンドとしてライブをするなど、他に類を見ないコンテンツになっている。
ストーリー面では、バンド(というアイドルとはまた違ったこと)をやる上での困難や戸惑い、そして、女子高校生(ゲームでは女子中学生もいる)としての等身大の悩みが強調されている。アイドルアニメではどうしてもアイドル活動にかける想いが強調されてしまうが、バンドであるがゆえ技術力や練習量も重要になってくる。彼女たちはバンドガールでもあるが、しかし同時に10代の少女でもある。数多の悩みを抱えている。そんな少女たちはバンドメンバーとの、時にはバンドを志す同志との交流の中で壁を乗り越え、成長していく。
このように、バンドリはアニメと現実、女子高生とバンドがクロスした作品となっている。バンドリは、2017年の今だから作れる2.5次元バンドアニメなのだ。
アニメ『バンドリ』とは
主人公・戸山香澄はこの春中高一貫校に編入した高校1年生。幼少期に美しい星空を見た香澄は、ライブハウスで演奏するバンドを見て、あのときと同じような感動を覚える。そして、仲間を集め、バンドを始めようと決意する。目指すは、香澄が初めてライブを観たライブハウス「SPACE」。果たして、香澄と仲間たちはSPACEのステージに立てるのだろうか?
声優を前面に
声優とキャラクターがリンク
最近のアニメではそういうパターンが多くなってきたが、今作でもアニメよりも声優が先行している。一部のメンバーはキャラ名と名前が似ていたり(同じだったり)、声優のプロフィールがキャラクター設定に反映されていたりする。例えば、牛込りみ役の西本りみさんの事務所プロフィールにはチョコレートが好きと書かれているが*1、牛込りみもチョコレートが好きである*2。ドラム・山吹沙綾役の大橋彩香さんに至っては、ドラム自体が趣味だ*3。このように、声優とキャラクターの設定がリンクしているのがバンドリの特徴である(※知らないだけで他のアニメでもあるかも)。
声優がバンドをする
前述の通り、声優自体がバンドを結成し、ライブをしたりCDをリリースしたりしている。8話と9話の間の週にはライブの映像が放送され、アニメしか観ていない人にも本気でバンドをやっていることを見せつけた。主役バンドPoppin’ Partyはその他の特別番組やネット番組、月刊ブシロードTVにも出演している。
全編当て振りの似非バンドというわけではない。声優として他の仕事もあるので毎日スタジオ入りというわけにはいかないが、(Poppin’ Partyは)週に数回の個人練習・週に1回の全体練習を行なっているようだ*4。もちろん技術的にはプロと比べようがないが、キャラ声で歌いながら演奏をするという一般的なバンドのしないことをしている。そういう意味では、割とすごいことをやっているバンドだと言えよう。
女子高生がバンドをする
バンド特有の悩み
この作品では、バンド活動に励む少女たちの悩みが描かれている。今作のストーリーは主人公の香澄がギターを手に入れ、バンドをする仲間を集めるというプロセスが多くを占める。その中で、楽器やバンドに関する個人の事情や困難が見え隠れしている。特に、香澄はステージに立ちたい想いばかりが先行してしまい、技術力やバンドとしての統一感・完成度を蔑ろにしていた。そのため、ライブハウスのオーディションの審査員に自分が一番下手であること、周りが見えていないことを指摘されると、精神的にショックを受けて歌が歌えなくなってしまった。
たしかに、アイドルアニメでもダンスの、あるいはユニットとしての統一感というのは大事だが、楽器を弾くバンドでは演奏を合わせるという別次元の難しさがある。バンドによって目指すところは違うが、一体になって演奏しなければならないのはどこも同じだ。彼女たちは練習を重ね、技術を高めつつ、バンドなりの高みを目指していく。アイドルグループから1人抜けたとしても、フォーメーションを変えればなんとかなるかもしれない。でも、バンドはメンバーが1人抜けるだけで致命傷になる。この点についてはアプリの方が詳しく描写しているが、アニメ本編でも鮮烈な描き方をしている。
女子高生の等身大の悩み
もちろん、彼女たちは女子高生であり、生活においても悩みが多い。のちにキーボードになる市ヶ谷有咲は頭脳明晰で成績優秀だが、それゆえに最低限しか授業に出席しないつまらない日常を送っていた。だが、香澄と出会って、友達ができてからは学校に来る日が多くなる。最初はあくまで香澄のせいで面倒に巻き込まれて嫌々という形でキーボードをやっていたが、のちに、実は先輩に頼んで稽古をつけてもらっていたことが判明する。そのため、本番で失敗したときにはかなり悔しい思いをしていた。
ドラムの山吹沙綾は家庭の事情があり、音楽活動から退いていた。というのも、彼女の母は身体が弱く、家事や2人の小さなきょうだいのことを任せられない。父もパン屋で忙しい。だから、沙綾が母親の代わりを「しなければならない」のだ。ドラム自体はすごくうまいのだが、ライブ直前に母が倒れるという事件があって前のバンドをやめてしまった。沙綾は1人の女子高生であり、母親の代わりをする「義務」はない。しかし、「義務感」からそうした役割を負ってしまい、両親の心配をよそに母親の代わりを続けていた。沙綾は文化祭で半ば強引に香澄のバンドに誘われたことをきっかけに、バンド活動に復帰する。このように、バンドのメンバーたちは、仲間との交流によって心の壁を取り払っていく。
ちなみに、アプリ版に登場するAfterglowのボーカル・美竹蘭は伝統芸能の家系に生まれたがために、親にバンド活動のことを理解してもらえず、苦悩することとなる。同様に、アニメにも登場したRoseliaのギター・氷川紗夜は出来のいい双子の妹にコンプレックスを抱いていて、姉を持つドラム・宇田川あこと対立することもある。アプリ版のストーリーでは、音楽活動とは関係ないところで繰り広げられる群像劇に注目だ*5。
百獣のお友達を前にして
気の毒なタイミング
お察しの通り、バンドリは動物の特徴を備えた女の子が登場するアニメの陰に埋もれることとなる。敗因はいくつか考えられるが、最大の要因はスロースターターだったことだろう。3話切り対策で放送を遅らせた上、バンドメンバーが集まるまでに8話もかかっている。これでは最大の見せ場であるライブが後の方になってしまうし、客も離れていってしまう。
一方の動物のアニメは、4話までにユーザーのハートを掴み、動画サイトの有料配信で後追いするファンが増えていった。ゲームも終了済みの終わりかけのコンテンツであるにも関わらずだ。そんなこんなで、バンドリが3話を放送する頃には、視聴者の心は完全に動物に向いていた。
たしかに、動物のアニメが持つ魔には他のどのアニメも敵わなかったと思う。どう見ても「覇権」となることが決まっていたコンテンツだっただけに、このような形で天地を返されてしまったことは気の毒としか言いようがない。だが、5話まで主役のライブが一切ないというのは、絶対売れると思って傲慢になっていたところがあるのではないだろうか? いずれにせよ、バンドリはタイミングに恵まれない作品だった。
バンドリのすごいところ
バンドリのすごいところは、歌がいっぱいあることとヒトがたくさんいることだ。だが、アニメ本編では今のところRoseliaメンバーと一部のキャラクターがモブとして出ているに過ぎない。アプリで描かれている彼女たちのストーリーを評価している人も多いと思うので、もっと本編に出すべきだ。一方、曲についてはアニメ本編に登場していない曲がたくさんあり、ライブやアプリ内で持ち腐れている感がある。ライブパートで使わない挿入曲でも良いので、音楽を流して、音楽に力を入れていることを示すべきだった。もちろん、Poppon’ PartyとRoseliaの曲は声優が演奏しているということも重要だが、その他のユニットの曲も良曲揃いだ。2期以降があるなら、ぜひそちらも流していただきたい。
簡潔にまとめると
バンドリは、声優が体を張ってバンドをやり、キャラクターが過酷な運命に立ち向かいながらバンドをする作品である。技術力を必要とする楽器の演奏と高校生という悩みの多い時期の描写が相俟って、独特の熱いヒューマンドラマに仕上がっている。ライバル作品の唐突な躍進による困難もあるが、この作品には他のバンドアニメにはない魅力がある。残すところあと1話だが、再放送がすでに始まっている。アプリやノベル・漫画などの展開もあるようなので、終わったコンテンツだと思わずに見守ってほしいところだ。
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*2:CHARACTER | BanG Dream!(バンドリ!)公式サイト
CHARACTER | BanG Dream!(バンドリ)ガールズバンドパーティ!
*4:第5回『バンフリ!』より
*5:2つの高校が近くにあって、商店街の盛んな街が舞台になっているため、家族内の繋がりだけでなく、家庭同士の繋がり・学校内での繋がりがある。