「アニメだから見ない」はありえない
主人公の少年が放射性のクモに噛まれ、スパイダーマンの力を手にしてしまう。
彼は逃げまどう中で、次元の破壊をもくろむ悪の暗躍と、スパイダーマン/ピーター・パーカーの死を目撃する。
思春期で父との関係に悩む主人公に託されたのは、時空の崩壊を止めるという使命だった。
まだ力を制御できない主人公。
そして、彼の目の前に現れるピーター・パーカーを名乗る中年のおっさん。
彼は無事、悪の企みを打ち砕くことができるのか?
マイルス・モラレスが主人公のスパイダーマンを「スパイダー・バース」の文脈で描いた作品である。
マイルスは先輩のスパイダーマンたちから学び、スパイダーマンとして成長していく。
スパイダーマンとは:壁にくっつく&クモ糸を発射
今作はスパイダーマンを1作でも見たことがあると楽しい。
今作のコンセプトが歴代のスパイダーマンが一堂に会する、というものだからだ。
歌舞伎や時代劇のように、1作でも見ていると、いつ何が起こるかが予想できる。
そうでない方には、軽く説明を。
放射性のクモに噛まれた青年「ピーター・パーカー」が特殊能力に目覚める。
壁に貼りつく力と、危険を察知する力(スパイダーセンス)だ。
それに加えて、クモ糸を発射する装置「ウェブシューター」を手につける。
ピーターは「スパイダーマン」となり、ニューヨークの平和を守る。
その他にも細かいストーリーがあるが、本編で説明されるので問題ない。
以下、今作の魅力を紹介していこうと思う。
スパイダー・バースの見どころは?
アメコミパロディ
テレビ東京などで放送されたアニメ『アルティメット・スパイダーマン』を見ていた方にはお馴染みだろう。
今回のスパイダーバースも、アメコミ調のエフェクトがかなり登場する。
画面の中にアメコミの『スパイダーマン』が登場するシーンもあるし、現実世界に吹き出しがつく演出もあって愉快だ。
全部説明すると感動が減ってしまうので、続きは劇場で。
アニメならではの表現
この映画が3Dアニメであることにはそれなりの理由がある。
「どうせアニメだから」とナメてもらっては困る。
まず、機能的な話になるが、アニメでは作画の違いで世界が違うことが説明できる。
『アルティメット・スパイダーマン』でも、未来のスパイダーマンがフルCGだったり、スパイダーマン・ノワールが白黒だったりした。
今作も、一部のスパイダーマンの作画が違う。
次に、実写ではなかなかできないことに挑戦していた。
墓石やらおっさんのスパイダーマンやら、いろいろなものが壊れ放題だった。
子どものスパイダーマンを気兼ねなく自由に動かせるのも、アニメならではだろう。
それから、EDM音楽にマッチした映像は、観客をクラブに行ったかのような感覚にさせる。
実写でも可能ではあるが、今作はアニメならではの色彩の魔法を使っている。
「アニメだから見ない」というのは、非常にもったいない。
スパイダーマンならではの3D
今作はぜひ3Dでご覧いただきたい。
スパイダーマンは3Dでこそ真価を発揮する作品である。
スパイダーマンがビルの間を「スイング」するシーン、マイルスが力を制御できないシーンなどは3D映えする。
加えて、今回は時空の崩壊がモチーフのひとつになっている。
巨大な実験装置を囲んでの戦いは、まさに3Dの凄みを感じられる。
完璧ではないマーベルヒーロー
今作がアカデミー賞長編アニメーション賞を受賞したのは、技術的な要因が大きい。
だが、ストーリーの面でもしっかりしている。
この映画は、思春期の少年の成長物語とヒーローの目覚めをうまくリンクさせている。
ヒーローものといえば、完璧なヒーローによる勧善懲悪だと思う人もいるかもしれない。
でも、マーベルヒーローの作品は、ヒーローが人間として苦悩するシーンが多い。
今回登場する先輩のスパイダーマンたちの中にも、そうした悩みを抱えた人がいる。
主人公のマイルスも、思春期で父と対立している。
反面、まだまだ子どもらしく、誰かに甘えたいこともある。
ヒーローとしても、力を使いこなせていない。
今作ではそんな少年の等身大の戦いが描かれる。
少年が悩みを振り切って成長する様子は、マーベルヒーローとベストマッチしている。
アメコミ調の演出を入れ、コミカルに仕上げている。
次元の違いを作画の違いで表現するなど、アニメという媒体を活かしている。
3D映えするアクションシーンは要注目。
思春期の少年の成長と、スパイダーマンの覚醒に至るストーリーが秀逸である。
余談:Spider-People
字幕版・原語版で見た人は、ある異変に気付いただろうか?
字幕でスパイダーマンとされている部分が、英語ではSpider-Peopleと表現されていることに。
このような性差のない表現には、新鮮さが感じられた。
たしかに、今回登場する先輩スパイダーマンの中には女性もいる。
(人間ではないブタもいるわけだが。)
一方で、男性のスパイダーパーソンは従来通り、スパイダーマンと呼ばれる。
「ウルトラウーマン」の存在とウルトラ戦士
日本でもそのような呼び方は存在する。
ウルトラマンが最たる例だ。
ウルトラシリーズには「ウルトラ戦士」というジェンダーニュートラルな名称が存在する*1。
やはり、個人名としては「ウルトラマンタロウ」「ウルトラウーマンマリー」のように性区別のある称号を名乗る。
決して、日本に馴染みのない表現ではないので、Spider-Peopleも受け入れてほしい。
*1:「ウルトラ戦士」という言葉は、ジェンダーニュートラルを意識して作られたものではないと思われる。初代ウルトラマンとの区別のためだろう。それが結果的に、女性にも通用する言葉になっている。