多様性:エリートが記述する歴史への抵抗
令和元年夏、『劇場版 仮面ライダージオウ Over Quartzer』が公開された。
仮面ライダージオウ/常盤ソウゴは、全ての仮面ライダーの力を受け継ぐことに成功する。
しかし、平成の歴史を修正しようと企む敵「クォーツァー」が現れる。
変身能力と「魔王」の地位を奪われた青年は、歴史修正主義者に立ち向かう。
仮面ライダーにミスマッチ? ノリノリの主題歌
クォーツァーのリーダー・仮面ライダーバールクスは、DA PUMPのISSAが演じる。
DA PUMPの他のメンバーも部下役として出演する。
そして、今作の主題歌はDA PUMPの「P.A.R.T.Y.〜ユニバース・フェスティバル〜」である。
まだ聴いたことがない方も、タイトルを見て「仮面ライダーに関係なさそう」と思うだろう。
私も映画を見る前は、露骨なタイアップだと思っていた。
残念ながら、映画を観た後の私の評価は「ベストマッチ」である。
どういうことなのか?
その理由をこの記事で説明する。
以下、映画の趣旨に関する言及があるが、映画の中で何が起こるかについては極力触れない。
仮面ライダージオウとは
『仮面ライダージオウ』を知らない方も多いと思うので、ざっと説明する。
この作品は、平成仮面ライダー20作記念に作られた。
主人公が魔王になるために、歴代ライダーの力を受け継いでいく話だ。
主人公の常盤ソウゴは、王様になりたい高校3年生。
将来、魔王になる存在として、正義の未来人たちから命を狙われる。
そうした中、平成時代には、時空テロリストが暗躍していた。
彼らは、別の仮面ライダーを王にして、ジオウを魔王の座から引き摺り下ろそうとする。
そのために、町の人を疑似的にライダーにして暴れさせている。
ニセモノのライダーを倒すには、本物のライダーから力を受け継ぐ必要がある。
ソウゴはテロリストと戦いながら、平成ライダーの頂点に立つ「正義の魔王」を目指す。
劇場版ジオウのテーマ1:歴史とは何か?
劇場版ジオウが第1に伝えたいのは、一般人の歴史学に対する認識が間違っているということだ。
歴史が記述しているのは、事実だけではない。
そこには、執筆者の主観や想像や願望も含まれる。
一人ひとりの執筆者によって、歴史は多様に解釈される。
歴史を読む側は、それを認識しないと、読み間違えてしまう。
あるいは、事実とは違う歴史を学んでしまう。
一方で、歴史を記述する側も、自分が歴史を解釈しているのを理解しなければならない。
歴史を「正しく」書き換えるのは、簡単なことではない。
劇場版ジオウのテーマ2:エリートが定義する世界への批判
第2のテーマは、エリートが多様性を無視して、世界の定義を試みていることへの批判だ。
例えば、毎年、その年の新入社員を定義している団体がある。
果たして、2019年の新入社員はみんな「AIスピーカー型」だろうか?
AIスピーカー型ではない新入社員は、存在してはいけないのか?
それと同様に、クォーツァーは多様な人々から目を背けて、平成世代を定義しようとする。
混沌とした平成時代を一言でまとめて「あげる」のは、優しさと言えるだろうか?
個人は全体(エリート)のためではない
個人はエリートのための存在ではない。
エリートが定義する「全体」の中に入らなくてもよい。
彼らエリートは全体に入るのが幸せだと信じていて、全体から外れた人を可哀想だと思う。
全体と同じになるよう、「直してあげよう」とする。
でも、それは個人を否定することに他ならない。
本当の幸せのためには、エリートの定義する幸せ(=全体)に刃向かわなければならない。
劇場版『仮面ライダージオウ』2つのテーマ:
- 歴史は、執筆者の多様な解釈によって形作られる。
- この世界の構造はエリートによって決めつけられ、多様性が無視されている。
多様性を歌う歌詞にぴったり
今回のDA PUMPの主題歌はまさに、人間一人ひとりの尊さ、多様性を歌っている。
劇場版ジオウのテーマに合った内容と言える。
曲調については、実際に映画を見てもらわないと、なんとも言えない。
何がどのようにPARTYなのか、劇場で確かめていただきたい。
平成に数えられなかった敵ライダーたち
ところで、ISSAさんが演じる「仮面ライダーバールクス」が気になった方もいるのではないだろうか?
彼は「平成じゃない」仮面ライダーである。
バールクスは、仮面ライダーBLACKとBLACK RXがモデルになったライダーだ。
BLACK RXは番組放送中に平成に突入したライダーだが、平成ライダーには含まれない。
パパイヤ鈴木さん演じる「仮面ライダーゾンジス」も、仮面ライダーZO・J・シンを合わせたものだと考えられる。
いずれも平成時代に作られた単発の企画もので、昭和ライダーに分類されている。
斉藤秀翼さん演じる「仮面ライダーザモナス」は、Amazonプライムビデオの企画「仮面ライダーアマゾンズ」が元になっている。
アマゾンズは一部の映画に登場した実績もあるが、平成ライダーのくくりではない。
大人向けの描写もあり、子どもには見せたくない作品だ。
このように、平成に生まれながらも平成ではないライダーたちが敵として登場している*1。
彼らは外野の立場から平成を作り直そうとする。
平成じゃない敵ライダーの戦い方にも、ぜひ注目してほしい。
*1:そもそも、平成ライダーは2000年の『仮面ライダークウガ』からはじまった子ども向け特撮ヒーローのブランドだ。クウガ以前は含まれないし、子どもを対象としないものは数えない。